贖罪7
『いったい僕に何が起こっているんだろう?これまでも女の子と話すことはあったのに、こんなに嬉しいと感じたことはなかった。』
彼は自分の気持ちに戸惑いを隠せなかったが、それは快い戸惑いであった。
そばに行ったのはいいものの、どこに座っていいか分からなくてオドオドしていると、『こちらにお座りになって。』と彼女が目で彼に伝えて彼女の横の左の空いたスペースをポンポンと叩いた。
彼は言われたとおり座った。
最初はあぐらをかいて座ったがどうも無作法な気がしてすぐにやめて足を前に出して座ってみたが、どうもしっくりこなかった。座り方ひとつでこんなに悩むのは初めてだった。
モヤモヤした気持ちでいると風が彼女から彼のいる方へと吹き、彼女の美しい髪が舞い上ると香しい匂いが彼の鼻孔へと届けられ、彼の嗅覚を刺激した。
彼の心拍数は急激に上がり始めた。
ドクンドクンと、胸に手を当てるまでもなく激しく鼓動していることが分かる。
こんなに激しくて彼女に聞こえたりしないだろうかと彼は心配になった。
横をチラッと見ると彼女は舞い上がる髪を少しもどかしそうに押さえながら、風でユラユラと揺れる花たちの舞踏会を幸せそうに眺めていた。
見られていたことに気が付いた彼女が彼の方に視線を向けると、気まずそうに彼はすぐに彼の靴に視線を移し、解けてもいないのに靴紐をいじった。
またチラッと彼女の方を見ると今度は彼女が彼を見ていて、彼と目が合うと『盗み見はこれでおあいこね。』と言いたげな、いたずらっ子のような笑顔で彼を見て、再び舞踏会の鑑賞に戻って行った。
彼の心臓は張り裂けんばかりだった。何か気を紛らわすことを考えようと思って目を閉じてみたが、目を閉じればそこにいるのは彼女だった。
闇を打ち破る光、それが彼女だった。なんて眩しいことだろう、彼は目がくらむ思いだった。