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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪6

「えっと、たくさん歩いて大変だったろう?とか汚れて可哀想だね…とか。」


 見ず知らずの女だったが、変わっている人という烙印を押されるのが急に恐ろしくなって、話すにつれて声が小さくなっていってしまった。


 変だと思われても構わない彼が、何故か彼女にはそう思われたくなかった。


「まあ、優しいのね!」


 そう言って彼女は目を大きく見開き、両手を胸の前でパチンとさせた。


 優しい。そんな風に言われたことは初めてだった。


 なぜか分からないが、何十人、何百人が彼をおかしいと言っても、彼女の優しいという一言のほうが遥かに重い意味を持った。


「ありがとう。褒めてくれてすごく嬉しいよ。あの、覗き見ることになって、それと、盗み聞きしてしまってごめんなさい。僕はもう帰るから。」


 そう言って立ち去ろうとすると彼女は後ろから呼びかけた。


「よかったら、もう少しお話ししていかない?」


 彼は驚いたが、言った本人も驚いていた。


『どうして見ず知らずの人にそんなこと言ったのかしら?』と彼女にも分からなかった。


 ただ、彼が嘘をついていないことは分かったし、危険な人ではない、いやむしろ優しい人だということも会話を通して分かった。


 それに何かに話しかける人に彼女は出会ったことがなく、思いがけず同じような人が現れたので、嬉しく思っていた。


 恐らくそれらのことなどが彼女に先ほどの言葉を放たせたのだろう。


『もう少しお話ししていかない?』彼の耳にはそう聞こえた。


 彼はピタッと足を止めた。しかしそんな訳はなかった。


 彼女のような人が覗き見、盗み聞きをしていて、靴にまで話しかける気味の悪い彼を呼び止めるはずはなかった。


 だがもしそうだったら?外れていたらこれほど恥ずかしいことはなかったけれど、彼は思い切って振り返り、聞いたと思ったことは合っていると仮定して、そして今度はそれが彼に向けられていることなのか確かめるべく、震える指を人差し指以外しまって自分に向けて『僕に向かって言ったこと?』と目で聞いてみた。


 周りには誰もいないのだから彼に向かって言っているに決まっているのだが、それでも彼は確かめないと自信が持てなかった。


 彼女は頷いた。話しかけたのにこちらに背を向けたままで動かずにいてどうしたのだろうと不思議に思っていて、やっとこちらを向いたと思うと彼がそんな仕草をしたので、『なんだか可愛らしい方。』そう思って彼女の顔から笑顔がこぼれた。


 それを見た彼の顔はパッと明るくなり、足取り軽く彼女の元に向かった。

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