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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪4

 風がそよそよと吹いて花を、そして彼女の髪を揺らした。


 蝶は彼の頭を越えて飛んで行き、空では雲が穏やかに流れていた。


 しかし瞳の中では時が止まったように、彼は彼女の姿だけを、彼女は彼の姿だけを捉えたまま動かなかった。


 なぜ見つめあっているのかは本人たちにも分からなかったし、見つめあっているということ自体意識していなかった。


 まるでこの時はこのために用意されていて、そうすること以外の選択はなかったかのようで、それは運命と呼ばれるものかもしれない。


 やがて泡が弾けたかのように彼らが我に返ると、時間は再び動き出した。


 彼は覗き見ていたことが好ましくない形で露見してしまったと思い、どう説明したらいいか考えた。


 彼女は覗き見られていたことに気が付いて、失礼な男に抗議をしようと口を開きかけたが、ふいに笑いが込み上げた。

 

 覗き見られていたことが彼女にはどう面白かったのか理解できなかった彼は困惑したが、それよりも今は岩から顔だけ出ているこのおかしな状況を改善しなくてはと思い立ち上がった。


 見知らぬ男が覗いていて、そのままの体勢でいるのは気味が悪かったし、立ち上がったままでも警戒感を与えると思って、危害を加えるつもりはないことをアピールしようと思って一歩下がった。


 彼が急に立ち上がった時に彼女はビクッとして笑うのを一旦やめたが、彼が一歩引いたことで彼女はほっとしてまた笑い出した。


「あなた、そこで眠ってたのね?」


 笑いが収まって、少し落ち着きを取り戻してから言った。


「え?どうして分かったの?」


「右腕を枕にして眠ってたんでしょう?」


 クスクスと笑いながら言った。


「そうだけど…。あ、もしかして跡がついてる?」


 恥ずかしくなって彼が慌てると、ますます彼女の笑いを誘った。


「ええ。それに、ここ。」


 笑いが収まると、彼女は指を自分の口元に当てて言った。


「涎の跡がついているわよ。」


 指摘するのは少し可哀想と思ったが、覗き見られていたのだから、多少の仕返しをしてもいいだろうと彼女は悪戯っぽく思った。


「え、参ったな…。」


 彼はすっかり恥ずかしくなり、持ってきていた水を顔につけて、袖でゴシゴシとこすった。


 鏡を持っていなかったが、彼女を見ると笑顔で頷いたので、落とせたのだろうと思った。


 彼の心をほぐすような彼女の笑顔はとても印象的で彼を惹きつけた。

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