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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪3

 仕事が休みのある日、花畑のある南側の斜面でいつものように昼寝をしていたのだが、ちょうど日盛りで日差しが強かったため場所を変えて、大きな岩がほぼ水平に北向きに1メートルほど伸びていて、日よけの役割を果たしている北側の斜面で寝ていた。


 春らしい暖かい日で、彼が心地良い眠りについていると、花畑で女の声がするのに気が付いて目が覚めた。


 この山は町から歩いて来られるわけだし、美しい川や花畑もあることから、人が訪れることがあって、それ自体はおかしくないのだが、不思議なことに声は一つしかなかった。


「今日はすごくいい天気ね。風も気持ちいいわ。」


 その声は言った。若い女の声で、品の良さがにじみ出ている声をしていた。


 興味をそそられた彼は、相手に気づかれないようにゆっくりと体を起こして、水平になっている岩から話し手が確認できる位置までこっそりと顔を出して覗くと、声の数と同じく一人の女が座っているのが彼から5メートルほど離れた所に見えた。


 南側の斜面から彼女は登ってきたので、寝ている男がいることには気が付かなかった。


 『花に話しかけてるのかな?』


 一人で話す変わった女だと彼は思ったが、その変わったことをしているのは普段の自分だということに思い当たって彼は苦笑いをした。


 初めて自分の行動を客観視した彼は、確かにおかしな行動かもしれないと思ったが、好きなものに話しかけているだけなので、おかしいといくら思われても止めるつもりは無かった。


 彼女は花畑の中に足を右側にした横座りで座っていて、南に見える太陽の方に体を向けていたので、彼がいた所からはそれが誰か分からなかった。


 興味本位からつい覗いてしまったものの、やっていることは卑怯なことだと思って、もう一度寝る態勢に戻ろうと彼は思った。


 しかし自分だけ相手の存在を認識しているのは、彼女にはフェアではないと思い、咳払いでもしてみせようかと彼が思案しているところへ、一匹の蝶がどこからか飛んできて彼女の前方へ消えて行った。


「あら、こんにちは蝶さん。お腹が空いたのかしら?」


 花の蜜を吸っていた蝶はやがて飛び立ち、彼のいる方に向かった。彼女のことが気になっていて、そちらに気を取られていたせいで、彼は反応が遅くなって身を隠すことが出来ず、蝶の行方を見るために体を回転させた彼女と目が合ってしまった。


 それぞれの瞳は相手の姿をしっかりと捉えた。

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