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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪1

 愛を知る者は幸せだ、大いなる喜びを知るから。


 愛を知る者は不幸だ、大いなる悲しみを知るから。


 始まりとは終わりの始まりであり、愛は喜びで始まり悲しみで終わる。


 それが自然の姿であり、地上での永遠とはそれを捻じ曲げたものだ。


 捻じ曲げた先に待つものは災いであり、罪を贖うことになる。

 

 深く愛し合っている若い男女がいた。


 28歳になる男は名前をストローフィーといい、25歳になる女はフォスといった。


 よく近くの山へ登って四方が見渡せる所で、ちょうど二人が身を寄せ合って座れるような大きさの岩に座り、沈みゆく夕日を見るのが彼女は好きだった。


 彼も好きだったが、それよりも燃えるような太陽に照らされた彼女の横顔を見るのが好きだった。


 彼にとっての太陽は彼女だった。


 彼女の笑顔は彼の心をいつも明るくした。


 夕日が沈みゆくまで彼女は遠くの太陽を、彼は目の前の太陽、つまり彼女をただ黙って見た。


 夕日が沈むと彼女は悲しそうな顔をして、しばらくふさぎ込んだ。


 まるでそれが最後の夕日で、これからはどの明かりを頼りにすればいいのか分からないようだった。


 そんな彼女を彼は優しく抱きしめて慰めた。


 その優しさに触れるたびに彼女は幸せで満たされた。


 やがてあたりが暗くなり東の空に月が見えるようになると、二人は座る向きをくるりと変えて月を見た。


 彼は夜空に浮かぶ月を見るのが好きだった。


 自ら光ることができず、太陽の光を反射して輝く月に彼は自分を重ねた。


 フォスという太陽がなくなった時は彼も役目を終える時であり、月が今日も美しく夜空に輝いているのを見ると彼は安心した。


 彼女はそんな彼の横顔を見るのが好きだった。


 夕日が沈み、明かりがなくなったと思ったら、彼女の目の前には自分を優しく抱きしめてくれる彼という光があった。


 彼女にとって彼は月だった。


 彼らはそうやって思い思いの時間を黙って過ごした。


 彼らにとって言葉は必ずしも必要なく、抱きしめたり、見つめたり、ただ黙って時を過ごすことさえも彼らにとっては会話だった。


 夢中になって互いを見つめ合う彼らには、第三者の瞳が憎しみの目で彼らを見ているのを知る由もなかった。

 

 彼らが出会ったのは一年前の春だった。


 ストローフィーは身長が180センチくらいの痩せ型で、美しい金髪の髪を後ろに流していて、無精ひげを生やした青い瞳の整った顔の男だった。


 そんな外見に惹かれて、以前は彼のことを素敵だと思い寄ってくる女もいたが、寡黙な男だったので一緒にいてもあまり話さず、退屈な男だと思ってすぐに離れていってしまった。


 彼もそれで一向に構わなかった。ペチャクチャと喋る女の話を聞いているより、かわいい鳥の囀りを聞いている方が彼はよほど楽しかった。


 人付き合いは面倒だと感じていたため、交友関係も狭く、仕事が終わると一人で暮らしている家に真っすぐ帰った。


 皆は彼のそんな生き方を見て何が楽しくて生きているのだろうと思っていた。

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