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藤間ミカン……自宅にて

藤間ミカンは満足気な表情で熊のキャラクターを眺めていた。


本来なら大好きなゲームの一番くじを20回引いてほとんどが下位賞だった。まだ、上位賞が残っていて、ラストワンまで見えている時点で撤退するには惜しく、最後まで引くかを悩んでいた。


だが、1回700円のくじが20回……総額にすると1万4000円。社会人になったとはいえ、それなりの金額だ。だが、ここで引くのも、後々後悔をしそうだった。


だからお財布の中身と相談していると、後ろから別の客がレジへやって来て一番くじの残りを全て買ってしまったのだ。


その相手が会社の後輩で、先日お見合いし、断った相手だったのだ。


そもそも、結婚を急かすお母さんとその友達の顔を立てて行っただけだし、彼には彼女……いや、少なくともそれに近い人がいたのだ。


だからお見合いの件は特に気にする必要はなかった。


だけど、この時のミカンは動揺していた。

推しのクマのキャラクターが残っているにも関わらず、くじは悉く外れ、しかも20個が20個とも全て下位賞ばかり。それに追い討ちをかけるように、残りは全て買い占められてしまった。


その事が普段何事にも動じないミカンを動揺させたのだ。


彼に失礼なことをしたとは思うが、八つ当たりのような態度取ってしまった事に後悔をする。


それでも、彼は優しかった。


はずれくじばかりのミカンを哀れに思ったのか、彼はミカンに上位賞である推しのぬいぐるみを譲ってくれたのだ。


それだけでも嬉しいのに、2つ当たっていたブランケットまで理由をつけて譲ってくれたのだ。


だけどその時、彼に言われた言葉に私はドキッとする。


『このゲームはすきですか?』

その言葉が……ミカンには重かった。


かつて好きになった人に言われた言葉がトラウマになっているのだ。


『こんな子供じみたゲームが好きとか、引くわぁ。俺が彼氏なら恥ずかしくて一緒に歩けないわ』

仲の良い友達とゲラゲラ笑いあうその人に言われた言葉に幼かったミカンはショックを受けた。


最初は彼に合わせてそのゲームをやめようと、自分のお年玉で買った主役キャラクター達がプリントされているゲーム機を近所の子供にあげてしまったのだ。


だけどそのゲームをやめた所で、彼がミカンにとって良い影響を与えてくれる存在に思えなくなってしまったのだ。


それ以降、自分にとってプラスだと思える人を好きになると決めた。だから、今まで男性と付き合う事はなく、未だに独身を続けていた。


そのせいかは分からないが、人に好意を告げることも、人に好きなものを好きとつたえることもできなかった。


だから、木波裕人の言った言葉が重いのだ。

彼はその言葉に強い意味など持ち合わせていない。


ただ好きなものなのかを問いたかっただけなのだ。


「好き……だけど」

他者に……いや、男性に使った事のない言葉に、ミカンは恥ずかしさを覚えた。


高鳴る鼓動を感じ、顔が熱を帯びているのが分かり、ますます赤面する。


だがそんなミカンに対し、木波裕人は不意に優しげな笑顔を見せ、言葉を放つ。


「じゃあ、交換しましょうか?」


……なんですと!!

まさかの言葉にミカンは先程までの恥ずかしさはどこへやら……。


推しのぬいぐるみを受け取ると、子供のように喜んでしまった。それを見た彼は、気を良くしたのか、ダブっていたブランケットまでミカンにくれたのだ。


地獄に仏とはまさにこの事で、目の前にいる彼が神様の様に見えた。今考えると、安い女だと思うし、恥ずかしくてしにそうだった。


木波裕人にもらったぬいぐるみを抱えながら、ミカンはベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋める。


別に彼に興味が湧いたわけではない。

自分の痴態に悶絶をしているだけだ。


だが、気になる事が一つあった。

それは交換してもらった代価だ……。


くじを引く時は同じ値段でも、結果が確定すれば自ずと交換レートが決まる。私が差し出したものは所詮下位賞だ……。彼が引き当てたものの価値とは違うのだ。


だが、彼は何かを求める事なく、2個のキーホルダーを持って帰ってしまったのだ。


「何かお返ししなきゃ……」


ミカンは枕に埋めていた顔を上げ、目の前のぬいぐるみを見ながらひとりごつ。


決して彼に気に入られたい訳じゃない。

借りを作りたくないだけなのだ……。


そんな事を考えていると突然、スマホからピポンというポップアップ音が流れる。


その音を聞いたミカンは近くにあったスマホを手に取る。


スマホの画面には、YouTubeのアイコンが表示され、題名には"宵戸レン"の名前があった。


宵戸レン……彼女が最近ハマっているユーチューバーで、お酒片手に飲みながらミカンの好きなゲームをするユーチューバーだ。


お酒のせいでへべれけになりながら、ゲームのストーリーを楽しむエンジョイ勢と呼ばれる配信者の会話が面白おかしく、その語り口調とは裏腹に彼の声はイケボだった。


彼の生配信を欠かさず聴いている彼女にとってその通知は天啓で、通知が出るや否やいつも真っ先に配信を見に行くのだ。


スマホを持ったミカンがYouTubeのアプリを開くと、今日は珍しく実写だった。


おそらくは今日発売の一番くじの事を話すのだろう。彼の話をワクワクしながら待つ。


『はい、皆さん、こんばんは。宵戸レンです。今日も楽しく宵戸レンの酔いどれラジオはじめていきましょう』

軽快な口調でレンくんが話し始めた。


とある偶然で彼の放送を聴き始めたはずなのに、もはやその声色にミカンはメロメロだった。


『今日の放送は一番くじを開封した後に雑談をしていきたいと思います』


「やっぱりね……」

予想の当たったミカンはスマホに文字を打ち込む。


灯里[私も引きましたー。結果は……]

打ち込んだ文字がハンドルネームと共にチャット欄に流れる。


『あっ、灯里さんも引いたんですね。結果は?結果は?』

推しのユーチューバーがミカンのコメントを読んでいる。その事実に、彼女は喜びで昇天しそうになるのをどうにか堪える。


灯里[全滅でしたぁー]

ミカンがそう打ち込むと、彼はスマホ越しに『うわぁ、残念』と言ってくれた。


だが他のリスナーに話題が流れてしまい、レンくんがミカンのコメントに触れる事はなかった。


だが、それだけで今日の不運が帳消しになる。

そうは言っても後輩のおかげでその不運も薄れてはいるのだが、推しの配信者に励まされる事ほど嬉しい事はなかった。


『じゃあそろそろくじの結果を話したいと思います』

と言って、レンくんは当たった商品を出す。


そこには二つのぬいぐるみとブランケット、そしてキーホルダーが並べられていく。


彼曰く当たりはもっと良かったが、とある事情により人にプレゼントしたらしい。


「優しい……」

レンくんのその話にミカンはますます彼を好きになる。だが……何故か脳裏に後輩の後ろ姿が

蘇ってきた。


『はい……という事で、G賞開封の結果。同じキャラが二つ被るという結果になりました』

悲しげな声でレンくんが、明けたばかりのキーホルダーを見せてくる。


『二つしかないのに、それが被るとかどないやねん!!』


「うわぁ……」

ミカンはレンくんの開封結果を見て、哀れみの声をあげる。


代われる事なら代わってあげたいとは思うが、自分はもっと悲惨だった事を思い出し、聴いているこっちも気が沈む。


『まぁ、同じものが二つ被ったとはいえこうして好きなものを好きと言えるって嬉しい事だよね』

彼は独り言の様にそう言って、締めの言葉をいい放送を終えたのだった。


この言葉が……ミカンがレンの生放送を聞くきっかけになったのだった。


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