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お見合い!!

木波裕人(きなみひろと)は緊張していた。


つい先日、母からお見合い話が持ち上がった。突然の話に戸惑っていたばかりだと言うにもかかわらず、その話が持ち上がった日の週末……今日という日に母はお見合いをスピードセッティングをした。


この突然のお見合い話についていけず裕人はただ言われるがまま、この日を迎えた。


相手の顔は愚か、情報すら聞かされていない裕人にとって、緊張をするなと言うのも無理はない。


母曰く、「私の友人のお嬢さんだから人となりは保証するわ!!」との事だが、正直言って不安しかない。


相手がどんな人であろうと……それこそ美人だ、不細工だと言った事はあまり関係がない。


木波裕人にとって、結婚というものはまだ先……いや、将来的にもすることは無いと思っていたからこそ、このお見合いに不安しかなかったのだ。


それは俺の趣味にあった。

それはとある世界的ゲームの熱狂的ファンであるという事だ。


そのゲームは通信でモンスターを集めて、育てて、対戦をするという内容がウケて世界的に爆発的にヒットし、25年もの間に渡り発売され続ける、今や世界大会すら行われるという人気ご長寿RPGで、そのゲームの大ファンである裕人の家には大量のグッズが置いてあった。


そんな彼が結婚と言う2文字を意識する事は、これまではなかった。今までも恋人がいればいいとは思っていたが、こんな趣味を持つ男を好きになる女性などいるはずがないとも思っていたから余計に今回の話は寝耳に水なのだ。


……はぁ、どうやって断ろうか。

お見合いの前だと言うのに裕人は小さくため息をついた。


この趣味が認められるはずがないのに、相手にいい顔をする必要はない。趣味を隠して結婚生活を送ることができない以上は断る以外に方法はないのだが、彼にはそれが憂鬱だった。


「はぁ……」


「これ、何をため息をついているのですか?みっともない!!これからお相手に会うと言うのに!!」

姿勢良く凛とした佇まいで裕人の隣に座る諸悪の根源が軽く俺の膝を叩く。


「だって母さん……」


『嫌に決まってるでしょ!!』

裕人が母に愚痴をこぼす言葉に被せるかのように廊下側から大きな声がする。


どうやら若い女性の声のようで、どうやら何かを嫌がっているようだった。おそらくお相手の方なのであろうが、こちらもどうやら雲行きがよろしく無いようだった。


『ねぇ、お母さーん、なんでこんな服なのよ!!恥ずかしい』


『いいじゃない。その服似合ってるから大丈夫!!もう……いいから早くお行き!!』

その様な会話が障子の向こうから漏れ聞こえ、足音が徐々に近づいてくる。


お見合い現場とは似つかわしくない会話と足音に相手の本気度が透けて見える。その事に少し胸を撫で下ろす。


だが、まだお見合いは始まってすら無い。

相手がどんな方であろうと断らねばならぬ事に違いはないのだ。


‥‥勝負はこれからなのだ。


足音が裕人達のいる部屋の前で止まり、一瞬静けさが訪れる。


裕人は再度小さく深呼吸をし、緊張を出さない様に気を引き締める。


スーッと障子が静かに音を立てて開く。

その音に裕人は背筋を伸ばす。


「失礼します……」


「お久しぶりね、恭子さん。さぁ、入って、入って」

落ち着いた女性の声が裕人のいる部屋に響き、その声に呼応するかの様に母が恭子と呼ばれる女性を招き入れる。


その声を片耳で聞きながらも、俺はただ前を一点に見つめることしかできず、固まっていた。


「みかんちゃんも久しぶりね、元気にしてた?」


「はい、おばさまもお元気そうで……」

みかん……今回のお見合い相手の名前らしい。


先程の恭子さんとの会話とは打って変わって、みかんと呼ばれた女性は落ち着いた声で親しげに母と会話を交わす。


……てか、おい、オカン。相手と知り合いだったのか?

裕人は心の中で母を睨みつける。


母からしたら知り合いが嫁に来てくれた方が気が楽なのかもしれない……しれないのだが、残念ながら裕人にそのつもりは全くないのだ。


「こちらがウチの息子の裕人です、ほら……」

母に催促され、裕人は立ち上がりみかんと呼ばれる女性の方を向く。


「はじめまして、木波裕人です……。本日はお日柄もよく……」

裕人は自己紹介をするが、余裕は全くなかった。女性の方を向いたはいいが顔を見ることができず、余計な口上まで述べる始末。


母の小さなため息も聞こえないくらいに彼は緊張をしていた。だが、その気まずい空気を打ち破ったのは、みかんと呼ばれた女性の一言だった。


「木波……くん?」

俺はその声を聞いて彼女の方を見る。


ノースリーブの紺のワンピースを着た女性が視界に入る。裕人より30センチくらい小さいであろう身長に細身の体。その細身に似つかわしく無い少し大きめの胸に掛かる、茶髪とは言い難いくらいに控えめに染められた髪が目に映る。


デジャヴ?

どこかで見たことのある体躯と呼ばれた名前を鑑みる。どこか出会ったことがある様な気がする……のだが、思い出せない。


記憶の片隅を探りながら、改めて彼女の顔を見る。


小さな丸顔に二重の大きめな瞳と鼻筋の通った鼻と薄めな化粧が何処か見覚えがある。


……木波くん。これ、お願いね。

不意に脳裏に昨日のことが脳裏をよぎる。


休みの日以外にいつも顔を合わせている人にそっくりだった。


「……藤間さん?」

不意に職場の先輩の名前が口から飛び出す。


藤間ミカン……。木波裕人の会社の2年先輩の女性社員で、地味で無口……、人付き合いの悪いことでも有名な女性の名前だった。








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