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‘日曜日、お家で待っていてくれますか?’
余計な事を何も考えられなくなるくらい、水樹は聖也を好きになりたい。
聖也は水樹の曖昧な所も卑怯な所も全部見透かした上で、全てを受け入れ包み込む素敵な彼氏だ。電話一つで水樹の不安だけを取り除いてくれる。
けれど水樹は勇利の事も頭から離れない。どうして勇利は自分に触れたのか。どうして仁美は勇利を好きなのに他の人と付き合うのか。どうして勇利は仁美を許してやり直さないのか。
どうしてどうしてどうして・・・。恋愛は幸せだけが詰まっているのではないのだな、とほんの少しの経験しかない水樹は思い知り、ズルい自分が誰かに見つかってしまいそうで怖かった。そして水樹は勇利から貰った入部届けの切れ端を用意し、子供の頃から大切な物等を片付けている缶の中に入れ蓋をした。
水樹の宝物は、これから増え続ける聖也との思い出だけで十分なのだから、もうこれを持ち歩く必要性なんてない。
一夜明け、練習に行く為にいつも通りの時間に家を出たけれど、二人にどんな顔で会えば良いのかわからずなかなか自転車が前に進まなかった。
遅れて到着すれば、体育館からは賑やかな笑い声と不思議な悲鳴が漏れ玄関まで響いている。水樹は静かに体育館内に入ると皆で練習、ではなくてドッチボールの真っ最中で驚き目を見開いた。
そして水樹を発見した勇利はニヤッと半笑いをしてから水樹に向かってボールを投げてきた。結構な勢いだったけれど、水樹はガシッとキャッチをして思い切り振りかぶり、勇利目掛けて投げ返した。
予想外の水樹の返球に勇利は慌てながら掌でボールをキャッチ、は出来ずに空中で2回、3回とボールを踊らせた後ボールを落下させた。
「アウトー!」
全員床に転がり大笑いして、水樹もお腹を抱えて笑った。聖也が水樹に向かって親指を突き立てる。
「もうー、なんなのお前ー怪力マネージャー。」
「えっ!?そんな情けない声の宇野さん初めて見ましたっ。」
また大笑いして、その後も水樹を加えてドッチボールの続きをした。
「おい羽柴ー、簡単にやられんなよー。」
「宇野さんのね、あの人のボーリングのスコアやばいんですって。無理ですよー。」
水樹は勇利とハイタッチをする。
「水樹、はい、俺も。」
「何言ってるんですか。敵だったのにしませんよ。」
「はい、聖也君、俺と俺と。イエーイ!」
「聖也君って言っちゃってるし。まじ羽柴だけ無理。」
「うえー。」
何も変えたくない。それが自分達なのだ。
水樹は聖也と勇利と出会った頃のような居心地の良さの中で言葉を交わし、何か吹っ切れたような、そんなスッキリとした気持ちで皆の中に存在していた。




