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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
98/263

98

水樹と仁美が言い争った日の夜、仲間と夕食を終えて帰宅した聖也は、熱めのシャワーを浴びながら頭の中を整理した。


そしてシュウッ、と蒸気機関車のような息を吐いた。


まじでどうすっかな・・・。


水樹が勇利を好きだなんて聖也にとっては所詮憶測の域であり、独りでゴチャゴチャ考えると悪い方に気持ちが行ってしまう事も経験上知っている。だからこんな時は会って感じれば良い。水樹のその声を、その息を、その体温を。


聖也は自分の部屋に戻ると携帯電話を手にした。なんと珍しく水樹からの着信が残っていて聖也はビクッとなった。電話があったのは丁度午後10時。出掛けていた聖也を思いやってのこの時間の選択だろうと思うと、彼女の愛らしさが際立ち愛おしくなった。


でも滅多に水樹から電話を掛けてこない事を考えると、今日の事で水樹の方こそ心が揺さぶられているんだと手放しには喜べない。そしてベッドに腰掛けいつもより緊張しながら電話を掛けた。着信音の間は頭の中で、自分、水樹、そして勇利の顔が交互にスライドしては消えていった。


「はい、もしもし、あ、立花です。あの、急に電話してすみません。」


毎度毎度のテンパイしている感じがかわいくて笑みがこぼれる。


「うん。そんな謝んなくていいって。どした?珍しいね。」


「えっ!?あ、特別に用ってわけでもないんです・・・。」


「うん。今日色々魂が動く事が多かったからさ、俺の声聴きたくなったんじゃない?」


「はい・・・。あは。さすが、なんでも良くわかるんですね、せ、聖也さん・・・。」


聖也の臭い台詞遊びにも流されず、それから背伸びした名前呼びで水樹が心配になった。


「おい大丈夫か?なんかあった?」


「わからないんです・・・。だけど今、 声だけでもそばにいられたらって・・・。」


「声だけでいいの・・・?」


「え!?」


「水樹・・・、ちゃんと聞いて・・・。あのさ、次の土曜日日曜日、俺の両親ときょうだい達さ、皆で親父の実家に帰ってて留守なんだ。」


「はい。」


「うち来いよ。」


水樹の返事はない。


「俺嘘も付かないし遠回しな事も言わねーよ。だから水樹、それってそういう事だって思ってくれていい。心が見えなくなって不安な時はさ、満たされるまで何度でも肌で感じ合えばいいから。」


水樹はしばらくしてから返事をした。


「日曜日、お家で待っていてくれますか?」


「ああ・・・。」


そして電話を切った。


それから、聖也はシュウーと2度目の蒸気を口から吐き出すと、落ち着かない様子で足を小刻みに振動させた。

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