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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
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やばいっ、水樹っ!


でも聖也の手は届かなかった。水樹は目を(つむ)って両腕で顔を隠すように自分を守り、体を横にひねった。同時にガンっと当たった音がして、紙コップは方向を変え水しぶきを撒き散らしながら床に転がった。


誰なんだ!?と聖也だけが思う。


「二人とも落ち着けよ・・・。」


水樹を抱き締めるようにかばったその声の主が、水樹の代わりに濡れた体でそう言った。


「明人・・・。」


そして勇利の知り合いなのは勇利の発した声で簡単に知る事が出来た。でもそれがなんなのだ。聖也は自分の愛しい人を、また守れなかった。


胸糞は悪いまま聖也はその悲惨な現場にようやく辿り着き、それから明人を軽く睨んだ。


「俺のなんでいつまでも触んないでくれる?」


「人は誰のものでもないよ?」


そして明人は水樹から離れた。


「そこで雑巾借りてきた。」


明人と同じく食堂に居合わせた堀田が律儀にも床を掃除し始める。


「堀田、勇利、ごめん、俺今日は帰るわ。」


「あ、あのっ、ハンカチ持ってますけどっ・・・。」


水樹が声を掛けても明人は振り返らずに、濡れたままスタスタと食堂から出ていった。


「水樹、大丈夫か?」


「はい。宇野さんのお友達のおかげで私は濡れずに済みました。でもお礼が・・・。」


勇利の友人である明人をもちろん水樹も認識している。つまりは聖也だけが知らなかった明人の存在に、聖也は嫉妬した。


「これ中身お茶?」


堀田が仁美に尋ねた。


「うん、緑茶・・・。」


その言葉に、明人が砂糖まみれになっていなくて良かった、と各々が安心した。続けて水樹が仁美に向き合う。


「間宮さん。あの、すみませんでした・・・。」


「間宮、今から焼き肉奢ってやるからもう行こうぜ。」


「堀田君・・・。」


去り際に勇利と仁美は見つめ合った。


「勇利っ。ごめんね・・・。私ね、まだ勇利の事がっ・・・。」


「うん・・・。お前井川の事大事にしろよ・・・。」


そして仁美は最後も涙目になりながら堀田と去っていった。


「水樹、お前ももう帰りな。気も動転してるだろ?駐輪場まで送るよ。」


「今日は一緒に帰んないの?」


「今日は俺達の学年で飯行くんだよ。」


その時、部長が聖也を呼びに来た。


「ここにいた。皆でどうしたの?それより聖也さ、もう体育館の鍵閉めるから、荷物片付けに来いよ。」


「あー・・・。」


「私は一人で帰れます。部長さん、片付けを手伝わなくてすみませんでした。」


水樹は部長にお辞儀をして、そして勇利と聖也と一緒に食堂を出た。

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