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そして春休みも残り僅かになり、今日もハンドボール部員達は練習へ行く。練習は午後からで、水樹も自転車を停め体育館へ行った。水樹は昨日聖也とショッピングモールで別れてからも、ずっと勇利と聖也の事が頭から離れなかった。
勇利と仁美が別れたなんて信じられない。しかも仁美の方から勇利に別れを告げたようだ。あの後聖也は勇利と無事に話せたのだろうか。勇利は今日は練習に来るのだろうか。と水樹はとても心配だ。
そして水樹が体育館に着き靴を脱いでいると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、少し頬がこけた勇利が立っていた。その姿に水樹は驚く。何もなくても勇利は華奢で細いのに、その痛々しい姿に勇利の痛みを感じずにはいられなかった。
「靴脱ぐのに何時間掛かってんの!ほらほらお前のせいで渋滞してんじゃん。」
でも、水樹はいつもと同じ笑顔の勇利にホッとした。
「も、もうっ。渋滞って、宇野さんしかいないじゃないですかっ。」
「そ?はは!あー、今日からまたクラブ頑張るかー!」
「体調はもう良いんですか?」
「なんだよいっちょ前に心配してくれてんの?元気元気、それより昨日はデートの邪魔して悪かったなー!」
「えっ・・・。」
「全然気が付かなかったよ。二人そんな事になってたんだね。でもさー、聖也君がまさかこんなオムツも取れてない保育園児にねー・・・。」
「もう、宇野さん酷いですっ。オムツはついこの間卒業しましたからっ。」
「何それうける!」
勇利が笑っている。本当に良かったと水樹は更に安心した。もし今、勇利が無理して空元気だとしても、水樹に見せる顔がこれなのならばそれで良いのだと水樹は思う。遅れて聖也が現れた。
「水樹、勇利、ういーす。おいこら勇利、水樹いじめんなって。水樹はな、保育園児じゃなくて幼稚園児なんだよ。」
「あんたが言ったら世話ないでしょ。まあ昨日はありがと。でも来なくていいって言ったのにさあ。」
「ばっか、お前がどうしてもセクシーなお姉ちゃんの映像を見たいって言ったんだろーが。」
「ちょ、ちょ、聖也君、自分の彼女の前で何言ってんの!?まじで馬鹿でしょ!?」
水樹は聞こえないふりをした。
「ちわーっす。おー、宇野さん久しぶりですね。どこか旅行でも行ってたんですか?僕も先週実家に帰ってたんですよ。ほんと大自然にパワー貰いました。あー僕の山脈達!」
「はあ、馬鹿がここにも。羽柴お前すべってんぞ。」
「うえー。」
あはは。と皆で笑い合った。この場所が皆好きなのだ。水樹は勇利に何があったのか詳しくは知らないけれど、勇利が笑っているならその笑顔に自分の一番良い笑顔で返そうと思う。
「聖也君、俺、まだまだショックで混乱してるけどね、もう前だけ向いて歩いてるから・・・。」
「おう。」
「何の話ですか?」
勇利と聖也と瞬介がいる。そして水樹は二人の会話を聞いていないそぶりで先に体育館内に入った。




