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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
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「待てよ。このままじゃ俺は終われない。」


「や、もう止めて。ね、ごめんね勇利君と井川君。」


井川は仁美が遮るのもお構いなしに何かを話そうとした。勇利はようやくこの場が治まるのかと思い始めた所だったのに、井川の信じられない一言で今度は本当に失神しそうになった。


「勇利・・・。俺、間宮と寝た。」


は!?はい!?今何て!?こいつは何を言ってる?その言葉の意味を勇利は拒絶する。理解したくもない。そして勇利は仁美を見た。


そうだよ、彼氏の俺が信じなくてどうするんだよ。


早く仁美が否定してくれなければ勇利はこの世から消えてしまいそうだった。でも仁美は黙ったまま、否定も肯定も勇利にくれなかった。


空間が歪む。吐き気もしてきた。それから震える声で勇利は仁美に聞いた。


「井川としたのか?」


仁美は下を向いたままほんの少しだけ頷いた。同時に勇利の心臓は野蛮な拳で握りつぶされた。


信じたくない・・・。


目の前が真っ暗になり立っているのもギリギリだった。


‘別れるから。’


言い残し部屋を出た。


そして、わーと泣き叫ぶ仁美の声を背中に聞きながらドアの扉をきつく閉じた。


その後勇利は自分がどうやって帰宅したのかの記憶がない。


勇利は家に帰ると部屋に閉じこもり泣いた。心と体の肉がちぎれて引き裂かれて痛かった。


気持ち悪いよあいつら・・・。同じ人間とは思えない・・・。


たった半年かもしれない。いや、勇利が仁美を意識した1年生の春からの全ての思い出が勇利を支配する。


苦し過ぎて、いっそのこと許してやり直す方が楽なんじゃないのかと逃げたくなる。


うっ・・・。苦しい。息がうまくできない。くそっ、くそっ、くそっ。あんな奴らに乱されてたまるもんか。


何もかもわからなかった。どうして仁美は嘘を付き通そうとしなかったのか。どうして井川は帰らなかったのか。つまりはそういう事なのか。


でももうどうだって良かった。何も考えたくないし知りたくもない。


部屋のどこかで携帯が何度も振動する音がしていたけれど、勇利は目を閉じて涙を流し続けた。悲しくて悔しくて、こんな姿誰に見せられるというのだ。


勇利はそれから誰とも連絡を取らずに春休みの練習も3日間休み、息だけをして廃人のように生きた。


わずかに落ち着いてから携帯電話を見ると、当然充電が切れていた。そして勇利が充電をしながら久々に電源を入れると、着信とメッセージが大量に残っていた。


堀田、聖也、クラブの友達、クラスの友達、そして仁美・・・。


勇利は巻き込んでしまった堀田に間宮の事を報告したが井川の事は伏せておき、他にもそれぞれ連絡事項があれば順番に返信をした。


それからやっぱり聖也には、直接電話をして声を掛けて欲しいと思った。

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