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お洒落なレストランで聖也と水樹は食事を終え、両サイドの街路樹がイルミネーションで飾られている有名な通りでデートをしていた。
「凄く綺麗っ。全部がクリスマスツリーみたい。こんな場所があるんですね。」
「大体4キロメートルくらい続いてるらしいよ。」
「正木さんはなんでも知っていて凄いです。さっきのお店も美味しいしかわいいし、私の知らない世界ばかりです。」
水樹は目を輝かせてイルミネーションを見上げてはしゃいでいる。気に入ってくれて聖也は嬉しかった。
周りも恋人同士ばかりで、きっと二人もよくいる初々しい高校生カップルに見られているだろう。
それから聖也は水樹を改めて観察した。夏が終わり秋を超え冬になり、日焼けしていた水樹の肌も白さが戻ればもちみたいで触りたいと思った。そして半分の2キロメートル程歩いた。
「疲れた?」
「大丈夫です。順番に色が変わっていくのが綺麗です。」
「そろそろ駅の方に行こうか。」
二人は続く人の流れから離れ駅に向かった。そして電車に乗り分かれの駅で聖也も水樹の為に電車から降りた。
「電車の外は寒いですね。今日も御馳走になってしまってありがとうございました。今度こそは私がご馳走しますね。」
「別にいいって。」
「それから、プレゼントもありがとうございました。大切にしますね。」
「俺の方こそプレゼントサンキュ。手作りなんて貰えると思ってなかったからさ、超嬉しかったよ。」
「いえ・・・。」
水樹の表情は柔らかく聖也は満たされていく。
「さっきのマフラー貸してもらっていい?」
水樹はマフラーを取り出し聖也に渡した。それから聖也は持っていた爪切りで札を切った。
「爪切り持ってるんですね。」
「スポーツマンだからよ。」
水樹はよくする不思議顔で聖也をじっと見た。そして聖也はマフラーを広げると、水樹の首に巻いてあげた。それだけの事で途端に水樹はぎゅっと体に力を入れ固まった。
聖也は少し傷付ついたけれど、水樹の頭をポンポンと撫でて笑って別れた。聖也にとっては今はこれだけで十分幸せなのだった。少しずつだけれど、二人が進歩しているのをお互いが感じている。
そしてこのままお正月、バレンタインと大きな変化もなく穏やかな関係のまま冬が過ぎ去った。
そんな中、いつもわがままも不満も言わずに笑っている水樹と、その水樹に包み込むような深い愛情を注ぐ聖也と、仁美に夢中な勇利の感情が激しく動く事件が起きたのは、春休みに入ってからの事だった。




