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「あー超幸せ。さっきさ、水樹の声もいつもより低くてさ、少しだけロボットみたいというか、あ、ごめんな、だから、俺変に構えちゃったよ。」
「あ、昔からなんですけど、緊張したりすると声が低くなってしまって棒読みになるみたいなんです。変でしたかすみません。」
「いや、そこも全部かわいいんだけどね。」
「えっ!?」
「俺着替えるね。どこで待ち合わせる?校門?」
「えっ!?あ、はい・・・。」
声の感じから、嫌なのかな?と聖也は水樹を思いやった。
恋愛初心者そうな水樹にはいきなりオープンな交際は負担かもしれないと考え、駅前の昔ながらの喫茶店で待ち合わせしようと約束した。あそこなら誰も来ないはずでまた二人きりになれると思ったのだ。
そして、その喫茶店で二人は昼食を済ませ、少し歩いて最高の時間を過ごしてから別れた。聖也はいつまでも胸がいっぱいで、約4年眺めた通学路の景色の色鮮やかさがくすぐったくて気持ちが良かった。聞けば水樹は交際するのが初めてで、聖也は責任重大で絶対に大切にしようとそれも誓ったのだった。
そしてその夜、聖也はベッドに座り携帯電話を手にした。
なんか送ってみるか。
こんな感じは新鮮で凄く恥ずかしい。
‘何してる?’
‘ドキドキしています’
返信早っ!と聖也は笑ってしまった。もしかして、水樹も画面の向こうで自分にメッセージを送ろうとしていたのではないか?と勘が働く。
しかも的外れな返事であり、それでもこういう素直な所が大好きなんだと思った。
‘これからいっぱい二人の時間作ろうな’
‘わかりました。よろしくお願いします’
硬い返事にも聖也は負けない。
‘好きだよ’
次はなかなか返信がない。
‘おやすみなさい!’
私も好きって言わねーのかよ。
うけた聖也は少し声を出して笑った。そしてからかいたくなった。
‘夜水樹の夢に邪魔しに行くから、鍵開けて待っといてよ’
‘煙突がついていますから大丈夫ですよ。おやすみなさい’
何それ。どっちの意味?ほんと面白い女だ。とはあ、と心地良い溜め息を付いた。
もう急がないし間違えない。水樹のスピードで、水樹の経験する初めての幸せを、自分がゆっくりと見守りながら水樹に全部プレゼントしてあげたい。
でも水樹は想像以上に幼く、聖也も好き過ぎるがゆえに意識し過ぎて体の距離をうまく縮める事ができず、陥った負のループから抜け出せなかった。
先輩と後輩、その関係性を早い段階で壊せなかった二人の交際は難しかった。




