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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
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「みーずき。今日なんか用事ある?今から一緒に帰ろっか。」


「えっ!?」


水樹は聖也の言葉で、自分が一体どのような選択をしたのかを思い知った。


‘正木さんの彼女になりたいです’


水樹が言った。という事は、いわゆる恋人同士になったのだ。けれども水樹は聖也に返事をするその瞬間まで聖也と付き合うという固い気持ちは持ち合わせていなかった。


一週間前の文化祭の土曜日、家の近くの公園で聖也が水樹に好きだと伝えた時、かっこよくて皆に慕われている太陽みたいな凄い先輩が自分を好きだなんてにわかには信じられなかった。


それに、近頃の水樹は馬鹿みたいに勇利一色だという自覚があり、だからこそ聖也の好きという言葉は落ち込む水樹の心の隙間にスッと染み渡り涙が飛び出たのだった。


失恋して自信がなくなっていた時に人に認めてもらえた事が嬉しく、ただ勇利を好きなのに嬉しいと思うのは矛盾していると複雑になった。


そしてキスについては強がって忘れようとした。皆いつかはするもので、当然観覧車の頂上でや打ち上げ花火が消えた瞬間に、などというファーストキスにロマンチックを求めるようなタイプではないと心を精一杯保ってみせた。


結果的には一週間、水樹の頭の中は良い意味でも悪い意味でも聖也で悩み、もういよいよ収拾がつかなくなっていたが返事はするつもりでいた。


先輩としては好きで、ただ付き合うというのはいまいちわからないと今の率直な気持ちをそのまま伝えるつもりだったのだ。


なのに水樹には言えなかった。聖也を目の前にしたあの時、ごめんなさいが言えなかった。好きな人が自分を好きじゃないという悲しみが、また目の前で起こる事が耐えられないと自分を重ねてしまい嫌だった。


聖也に対してそんな中途半端な好きしか持ち合わせていない水樹は、偽善者でも残酷でも真の悪人でもない。水樹はこれからちゃんと好きになれるように頑張っていく。


だから、彼女になると決めた水樹がやらなければならない事は、勇利と仁美の幸せを願う事とこんな自分を好きになってくれた聖也とちゃんと向き合う事の2つだ。


「あ、羽柴君達にご飯誘われていますけど、まだ返事していないので断りますね。」


そして聖也は恋に鈍そうな水樹が自分の方を選んでくれるんだと意外に思い、水樹がそんな一途なタイプなんだと嬉しかった。

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