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「あの、今いいですか・・・?」
「来てくれたんだ。俺も今から水樹に会いに行こうと思ってたんだよ。」
「そうなんですか・・・。」
「この前の事なんだけど、勝手だけど、俺やっぱり謝らない。好きな娘には俺、いつだって触れていたいんだ・・・。」
水樹は何も答えない。それでも聖也は迷わなかった。
「なあ水樹、先週俺が伝えた事って、覚えてる?」
「あ、今日はその事を言おうと思ってて、あのっ・・・。」
「待って、ここだと話しにくいから。」
聖也は水樹を誘うように歩き出した。隠してはいるがその間胸は圧迫され続けていて、空気も重く手汗も酷い。
それから誰もいないバスケ部の部室に入りドアを閉め、二人きりで話を続けた。
「返事、貰ってもい?」
「本当の事を言うと、この一週間、正木さんの事が頭から離れませんでした。」
「うん。」
「考えて、考えて、どうする事が正しいのかわからなくて苦しくて・・・。」
「うん・・・。」
「返事がいるのかいらないのかすらもわからなくなって・・・だから・・・遅くなってすみませんっ。」
「このまま終わりかと思ったよ・・・。でもそうなっても仕方ないなって。」
「すみません・・・。」
「いや、全然。で、返事出来るようになった?」
「はい。あの、私・・・正木さんの・・・。」
来る。覚悟していてもバクバクと聖也の心臓が暴れて飛び出そうだ。
「彼女になりたいです・・・。」
「えっ!?」
わけがわからなかった。そしてはっ、はっ、と2回吐くように息をした。
はっ!?ま、じ、かっ・・・!?嘘だろっ、やべっグッときた・・・。
そして数秒経ってから、安堵と高揚の中聖也は水樹を優しく見つめた。すると今度は水樹の方が照れて目を逸した。
誰もいない二人だけの部室。でもこの時聖也はキスはしなかった。次こそは水樹の速度でゆっくりと始めていきたいと今誓ったのだ。
あーまじかよ水樹が俺の彼女になった。期待もしてたけど、やけになる準備もしてた。もしかして最初から両思いだったんじゃ・・・?あー、やべーな、男女交際始まっちゃったよめっちゃ幸せなんだけどー。何何、超俺の水樹、的なあ?
まだまだ聖也の高揚は収まらない。それに緊張と不安の反動でにやけも止まらない。
「そだ、連絡先ちゃんと教えてよ。」
「あ、そうですよね、あ、はい、はい。」
聖也にとっては水樹のこの堅苦しさもツボでかわいくてたまらなかった。




