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4月といえども例年通り花冷えでまだまだ寒い日が多く、せっかくの今年の桜もよくある雨風で散ってしまっていた。
クラスの仲間とカラオケで意気投合を果たした次の日の昼休み、勇利が今日の放課後どうしようかと考えながら廊下に出ると、途端に絡まれた。
でかいし黒髪じゃないぞ。やばい奴だ。関わりたくない!
そして勇利は目玉だけを左右に振り、逃げ道はないかと模索した。
「あ、ねえ君、もうクラブ決まった?」
「・・・まだですけど。」
「俺、3年の正木。」
「はあ。」
「ハンドボールしない?」
「しません。じゃ。」
「ちょちょちょっと待ってちょっと待ってよ。」
「・・・。」
逃げられない、と嫌悪する有利に対し正木はすかさず何やらいやらしい手つきで訴えかけてきた。
「あのさ、4年のマネージャーさんがいんだけどさ、もう胸なんかこれもんでさ、超いい女でデラックスなの。」
「・・・。」
「お前今日絶対練習来いよな、男の約束だからな。」
そう言うと正木はあっさりと立ち去った。
めっちゃ睨んでんじゃん・・・なんなのあいつ。もー。
取り残された勇利は一呼吸置いて更に追加した。
ふーん、年上マネージャー・・・ね。わかったよ、行くだけだよ?入部しないよ?あ、でも俺スケベじゃないからなって誰に弁解してんだ。ま、まだなんも決まってないし、見学だけだからね。卓球もハンドボールも似てるって事で!
正木の睨みに恐れをなしたわけでも年上マネージャーという思春期男子ど真ん中の好奇心をさぞくすぐるであろうキーワードに反応したわけでもない勇利は、言われた通り抗うことなく従順に、放課後グランドに向かうのだった。