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なんも考えらんねえ・・・。俺は今どこにいるんだっけ?
頭がぼおっとした。わずかな記憶に残るのは水樹の声と、肩の痛みと、先輩達の涙、そして両脇を抱えられて歩いた自分の最悪の姿だった。
ガンッ。と聖也は近くの壁を殴った。擦りむいて痛くて血がにじんだ。それから聖也はあの日水樹に言った言葉を思い出した。
一緒に燃えようよって。
そしたら水樹はこう答えたんだ。
灰になってしまうって。
くそはまじで俺だ・・・。
聖也は右手を額にやり、誰の姿もない体育館内のミーティングルームで独り目を閉じて泣いた。思い出したくもないのに、退場を告げたあの笛の尖った音が頭から離れない。
どうして俺はあの時・・・。昨日だってもっとああしてたら・・・。俺が後半も出場するって言ったから・・・。くっと涙が増す。
涙が出るならもう思い出すのをやめればいいのに試合の事が一向に頭から離れない。そしてまた涙を流す。もうそれを拭う気力すらなくなり、このまま消えてしまえそうな程に聖也はうなだれていた。
静かだな・・・。
この部屋に引きこもってからどれ位の時が経ったのかもわからない。ただ、さすがに何十分も感傷に浸っていると、涙にも愛想を尽かされてしまうようだ。
聖也の耳には時計の秒針の音だけが聴こえる。その音だけは聖也の心を穏やかに慰めてくれていたようで、ついさっきまで絶望のどん底にいたくせに、少し周りを気にする事も出来るようになってきていた。
皆心配してっかな・・・。皆んとこ戻らねーと・・・。
やっと立ち上がりドアの方に向かうと、聖也が開けるよりも先にドアが開き、部長はじめ5年生が迎えに部屋まで来てくれた。




