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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
52/263

52

ハンドボールでは、2分間退場は頻繁に起こる事でも、エースの聖也が抜けていた間はバランスも流れも修正できずに点差を広げられてしまった。


まだ勝負はわからないのに後輩達が先に泣くわけにはいかず、涙を堪える為に応援席の勇利は天を仰いだ。


「うっ、うっ、うっ・・・。」


泣き声の主は瞬介だ。体育館内の誰よりも先に大泣きしている。勇利は少し引いてしまったが、でもピュアな瞬介のお陰で冷静さを取り戻し、落ち着いて得点を確認する事が出来た。


17ー23。差は6点。


聖也がコートに戻った今、ここから反撃開始となる事を信じ、後押しとなる大声援を送り先輩達を勇気付ける。また、コートに復活した聖也も意外に妙に落ち着いていて、試合の雰囲気を変えていく。


そして残り時間10分を切ると、聖也はあまり自分ではシュートをしようとせず、冷静にゲームメイクをし、それが面白いくらいにハマっていた。


こんな状況でもメンタルを立て直す聖也はさすがで、大会中周りの者は何度も心を奪われ何度も聖也に惚れ直した。見た目は怖いけれど、憧れない奴はいない。


まだまだ勝負はわからない。ハンドボールは面白い。そして部員達も時折勝負の事を忘れ、つい両校の見事なプレイを単純に楽しむただのファンになる。


バックパス、ワンバウンドパス、ラテラルパス、ポストパス、速攻、キーパーとの1対1、パターンによって変わる巧みなシュート、それからスカイプレイ・・・。熱い。


「3分前ですっ、頑張って下さいっ。」


感動の連続で、気が付けば残り時間は3分、得点は21ー25まで追い上げていて、つまり後2点取れば大会2位となり全国への切符を手に入れる事が出来る。


いけー!と選手も応援もフルスロットルになれば、運良くボールを回しているのは聖也達だった。


時間がない、攻撃しなければ、と両サイドを使って大きく速くパスを回す。それからスペースを作り聖也がシュートした。


けれどすっぽ抜けたボールは床に叩きつけられ、ゴールとは違う方向の横に大きくバウンドし、そして素早く相手キーパーも動いた。


取られるっ。とヒヤッとしたその瞬間、ポストの選手が既に跳んでいた。


部長は、バウンド中のボールを跳び込みながらまるでバレーのアタックのように、最後はネットに押し込んだ。


ピッピッ。ピッピッブー。


そして試合終了のブザーがこの真剣勝負に無情の幕を引く。


22ー25。でも3点負けだ。勝ち点も得失点差もB校と並んだ。どういう事が起きているのか。


後輩達は息をするのも忘れコート内を見つめ、そしてコート内の選手達は激しく呼吸をしながらベンチを見ていた。


勝ち点と得失点差が同じならば、両校の総得点数で順位を、2位を決めるのである。


そしてそのすぐ後、夏子がタオルで目を抑えながら首を横に振った。


その瞬間聖也は膝から崩れ落ち、大勢に見られているのも忘れて大号泣した。

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