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大会2日目。既に朝一番にD校との試合を終えた選手と後輩達は、ゼリー飲料を飲みながら他校の試合を2階席で観戦していた。
実はD校には勝利していた。それでも誰も意気揚々とはしていない。その試合の結果が25対21と、気合を入れた割には点差の開きが得られずに不安で不気味で落ち着かないのだ。昨日の疲れ、更に聖也に関しては左肩のせいもあるのだろう。
大会はリーグ戦の為、仮に勝ち点が同じであれば得失点差により順位が決定する。現段階で全勝しているのは聖也達とB校、それから一敗でA校が続く。だから今、目の前で繰り広げられているA校対B校の大事な激闘を全員で真剣にチェックしているのだ。
「A校が優勢だけど予想通り超接戦だね。」
先輩達とは少し離れた席で水樹と勇利が重々しい表情で話をしていた。
「もし仮にこのままA校が勝って、俺達が今からやるB校に負けたとしたら、A、B、それから俺達が一敗同士で並ぶじゃん。そうなると勝ち点が同じで得失点差になる。」
「はい。」
水樹だってそれくらいは理解している。
でも、それより水樹はエースである聖也の得点が少ない事が気になっていた。聖也の得点は通常全得点の6から7割近くを占めてくるのだけれど、今朝の試合に限りそうではなかった。
ピッピッブー。
「どおわーっ!」
そして試合終了のブザーが鳴り、その瞬間にA校のエースが勝利の雄叫びをあげた。それはまるで敗者を地獄に突き落とす悪魔の叫びのようで、胸糞悪く背中に鳥肌が立った。
これでA校は全試合を終了し、A、B校共に一敗という結果が得られた。つまり聖也達がこのまま最後のB校戦に勝ち全勝すれば文句なしの1位通過で全国大会に挑める。
また、万が一B校に負ける場合では2点差以内で収めなければ、A校が1位でB校が2位、聖也達は3位になってしまうというわかりにくい立場に立っている事も同時に明らかになった。
「宇野さん、私そろそろ下に行きますね。」
水樹は2階からおりながら聖也を思った。
肩そんなに痛むのかな。でも昨日の夜は勇利さんとじゃれあっていたし絶対に大丈夫だよね。
水樹は今話したばかりの勇利の事も少し想った。恋をする者にとっては好きな人の事で募らせるのは日課のようなものなのだろうか。
男らしいのに幼くもあり、色んな顔を見せてくれる勇利を水樹はいつだって思い出しては幸せな気持ちになる。
そして自分なんかが大先輩である聖也を何度も気に掛ける事は出過ぎていて失礼に違いない、と過度な心配はやめ、それからコートに入る為の扉の前で試合に集中していった。




