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立花水樹···1年A組(ハンドボール部のマネージャー)
前田礼···1年A組(水樹の友達)
羽柴瞬介···1年D組(礼の友達。ハンドボール部)
宇野勇利···2年A組(水樹の好きな人。ハンドボール部)
間宮仁美···2年A組(勇利の好きな人)
長谷川明人···2年A組
堀田誠···2年A組(明人の友達)
正木聖也···4年E組(ハンドボール部)
28対28。
勝ちたい。負けるなんてありえない。両校の気持ちが錯綜する中A校のスローオフでゲームは直ぐに再開され、そしてその数秒後にはシュートを打ってきた。
そのボールを聖也達のキーパーが掴んで間髪入れずに味方にパスをし、丁寧にキャッチしてからドリブルで進めばA校のキーパーとの一対一の勝負が出来上がった。しかもキーパーが前に飛び出しいる形の絶好のチャンスだ。
その動きを見逃さず、キーパーの頭を超えるようにフワッとボールを浮かせてシュートした。
ピッピッブー。
ゲームセット。全員が得点板を凝視する。体育館内は見事に静まり返る。
29ー28。
どわあ!
「ナーイッシュッ、部長ーっ!」
各自わけがわからないくらいに熱く、熱くて、熱かった。
「超やばい、まじで感動した、俺熱い、超熱いよ!」
全ての者が優勝に匹敵するくらいの喜びに包まれた。聖也達は勝利したのだ。
そして先生の記憶も曖昧なくらいに十数年ぶりにA校を撃破した後、苦戦しつつもE校をけちらし、聖也達は、一日目をなんと全勝で終えて宿舎に戻る事が出来た。
それから部員達は上がりきったテンションのまま夕食を取り、お風呂上がりに簡単なミーティングをしていた。
「明日は2試合目が終わったらそのまま帰宅なんで、荷物を体育館まで持ってくように。えーそれから明日も朝早いので今日は早く寝る事。」
「せいっ!」
部活というものは何故か独特の返事を持つ。
「最後に声出そう、今日は応援ありがとな、明日も勝つぞっ!」
「しゃあっ!」
解散後聖也は水樹の様子を確認した。でも水樹は瞬介とまた喋っていた。
また羽柴といちゃついていやがる、と実際はいちゃついてなどいないのだろうけれど、つい負の感情が生まれてしまう。聖也の思う水樹は、瞬介や勇利とは頻繁に話すが反対に、自分達4、5年生には特に用事がない限り近付いては来ない。
同級生・・・。聖也と水樹は今だけで言えば誕生日の都合で4歳違いであり、10代の者達にとって15歳と19歳の年の差は信じられないくらいに傷付いたりもする。そして、瞬介と話す水樹を見て、モヤモヤする気持ちが自分に生まれている事を聖也は認めた。
中学生の時から聖也はもてた。高専生になってからもアルバイト中に連絡先を渡してきた女子と付き合ったり、ナンパしてきた女子と良い雰囲気になったりした事もある。
振られた事はあるが、自分から言い寄った事など一度もなく、だから水樹につられて急に純情ごっこを始めてしまった自分では、水樹に対して抱く全部の感情を言葉に変える方法がわからない。また、言葉に変えると同時に、その全部が消えてしまう事もわかっていた。
「正木さん。」
突然のその声に聖也の脈が速まった。




