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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
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水樹は勇利と出会った頃と変わらずに勇利を想えば途端にふわふわし、けれども礼という人間は一人常に冷静で視野が広く客観的に自分やその周りの小さな世界を捉える事ができ、だからこそ水樹に尋ねた。


「ね、さっきの女の人って、その宇野って人の彼女なの?」


「違うよ。間宮さんて言うんだけどね、その宇野さんのクラスメイトでね、陸上部で、えっと、自分の先輩と付き合ってるんだよ。どうかしたの?」


「だって情報早くない?ボーリングって昨日の夕方の事じゃん。」


「あ、そっか、そう、かな・・・?私達みたいに朝からお喋りしたのかな。仲良いって言ってたし。」


「どうだろうね。体育だし。」


「うーん、知らない事を考えても結局わからないからもう終わりっ。わかった?」


「何それ。うん、そだね。やっぱ水樹ちゃんは面白いね。」


「こっちこそ何それ。面白さも普通だってば。それにしてもやっと金曜日だよー。今週は長かったね。私疲れて目がショボショボするもん。」


「どれ?ちょっと見せて。」


礼はいつも通り水樹に顔を近付けた。いつも通り自分の綺麗な瞳を水樹に自慢する為だ。


「前田君顔近いよっ。距離感間違ってるから。」


「キュンてさせちゃった?」


「してないし。春からずっとこんな調子の前田君にもうすっかり慣らされたからね。」


礼は水樹の反応がいつもなんだか奇妙で笑わされてしまう。


「さすが。やっぱ水樹ちゃんは強者だよ。」


それから礼は水樹に微笑みを向けながら思案した。


例えば自分の心臓に厄介な棘が刺さってしまっているとしても、それが蜘蛛の糸よりも細くて華奢で繊細な存在だとすれば、今ならまだ自分自身であえて気付かない事にもしてやれる。


例えばいつかその棘が肥大化して凶器に変身し、内側から自分の身体をズタボロに引き裂いてしまうような事になるのであれば、そうなる前に心の一番奥の方に頑丈に閉じ込めておきたい。


それが水樹のすぐ隣りにいる自分の役割で、なおかつ、礼が礼らしくある、礼の生き方なんだと礼は思う。

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