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「水樹ちゃん、聖也から連絡あってね、せっかくの歓迎会なのに、行けなくて、歓迎できなくてごめんねって。てか水樹ちゃんかなりきてたね。」
「私も正木さんと一緒に出来なくて残念です。でも今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました。結果は悔しいですけど。」
「まあね。あー見てもどー見ても皆おっさんだしね。それにしても超手足長いねー。身長何cmなの?」
「165くらいです。」
「ほんとよく育ったよねー。」
「でか!俺と同じくらいじゃん。ちょっと来て!」
突然話に割り込んだ勇利はグイっと水樹の手を引き自分の背中と合わせた。背の比べっこをしているのだ。
「よし、勇利君の勝ちー!圧勝!この俺に勝とうなんて一億万年早いからね。」
水樹はこんな他愛ないじゃれ合いにもドキドキした。触れ合う肩と肩に、それから勇利のその可愛らしい様子にどうしても心が揺れてしまう。
だから水樹はせめて自分のこの心の音が、無邪気にふざける大好きな勇利に聞こえませんように、と静かに願うのであった。
そして歓迎会は解散になると、瞬介は寄り道せずに帰宅し、姉と住むマンションに戻ってきた。着替えも済ませて今日のボーリングを意味深長に思い起こす。
水樹と夏子は100点のハンディがあった為に、水樹は2ゲームの合計得点が423点になり見事3位に輝いた。
瞬介の知る水樹は、いつも誰にでも笑顔で元気いっぱいでなんでも一生懸命で、ボーリングだって入賞してとにかく嬉しそうであったし、それが瞬介も嬉しかった。
優勝は534点で断トツ勇利で、相変わらず何でもこなす勇利に同性としては複雑な気持ちを持つ。
それから自然に水樹と夏子の会話を思い出している所に、丁度カチャッと玄関の鍵が開く音がした。
「瞬介ただいまー帰ってんのー?ん?何やってるの?何ー?何の印付けてるの?賃貸だから傷は駄目だよ?」
「うん・・・マスキングテープだから大丈夫・・・。」
165・・・。
はっきりとした理由も考える前に、瞬介はその高さにテープを貼っていた。
「ねえお姉ちゃん、俺、背、伸びるかな・・・。」
「何?思春期?うーん、羽柴家チビだからねー。でも瞬は男の子だからまだまだ伸びるよ。」
「そう・・・。」
だといいな・・・。
この気持ちがどういう事の始まりなのか、恋をした事もない瞬介は自分にひたすらに鈍感で、ただ、遠い何かを夢見るようにそのテープで付けた印を毎日見上げては、切ない溜め息を付く日々を送り始めるのであった。




