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眠い・・・。
カクッ。勇利の首は90度に折れ曲がった。勇利の午後の授業は広がる哲学の世界で、それと同時に広がる勇利の夢の世界・・・。
ゴツン。勇利は先生にこつかれなんとか起き上がり、それからいつもそうするように仁美に目をやると、仁美も必死に眠さを堪えている様子だった。焦点が合っていない仁美のその姿も勇利には愛しさの塊だ。
仁美の眠い理由が自分で、自分の眠い理由が仁美で、それは勇利には格別な気分であり、つまりは二人は約束通りに昨日の夜メッセージをやりとりした後、結局勇利から電話を掛け、12時頃まで話し込んだのだった。
放課後仁美に元気がなかったのは、彼氏である陸上部の先輩とクラブが始まる前に喧嘩をしたせいで、しかも理由も有るような無いようなつまらないもので、でも彼女のいない勇利が仁美にアドバイスしてあげられる事など何もなく、ただただ優しく、うん、うんっ、と話を聞いてあげた。
彼氏との事を悩み始めている仁美は話し出したら止まらない様子で、最終的には、もう少し頑張る、で落ち着きその後は関係ない話で二人は長電話をした。
別れなよ。勇利はその一言は言わなかった。仁美が悩むのは、彼氏の事が好きだからだ。だからまだ勇利は何も言わないでいる。でもいつか、その時が来たら・・・。
今日最後の授業の終了のチャイムが鳴ると、勇利は仁美に近付き話し掛けた。少し眠そうだけれど、いつもと変わらない爽やかな笑顔に勇利も自然と笑顔になった。
「こらっ。授業聞いてなかったでしょ!」
「ていうか勇利君頭こつかれてたじゃん。」
「ばれてた?でもなんで俺だけって思ったけどね。ほぼ全員寝てたし。午後からの哲学とかほんときついでしょー。」
「私昨日寝たの1時半だったよ。勇利君は?」
「俺も同じくらい。寝不足でこの後走ったらばてるよね。電話遅くなってごめんね。」
「そうだけど・・・。やっぱり話聞いて貰えてよかった・・・。ありがと!」
そして勇利は肩にグーパンチされた。
「いってー!」と肩を押さえてしゃがみ込む勇利に仁美は慌てて駆け寄り謝罪した。ふざけただけの自分のわかりやすい演技なのに、心配そうに下から覗き込んで自分を見つめる仁美に、勇利は胸がドキドキした。
近い顔・・・。このまま抱きしめたいよ・・・。
なーんて今のは嘘!と勇利が表情でばらした後に、本当は嘘ってわかってたよっと勝ち誇ってくる仁美に、勇利の切なさは募っていく。
ほんとは仁美が自分の彼女だったらいいのに・・・と。




