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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
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明人と水樹はどちらからも動けなかった。それに明人の記憶の中の水樹ならば子犬のように弾んで明人に駆け寄ったに違いない。ドクッ、ドクッ、ドクッと二人の心臓は同じように警戒しながらゆっくりと動き、お互いにこの状況に困惑していて同じ様に目を大きく見開き固まっている。


明人がそばにいなくても水樹は残酷な程綺麗になり過ぎていて、粗末な自分だと自虐する明人には眩し過ぎ、明人は、ああ、自分達のくぐっていたトンネルは違う場所に続いていたんだと思い知る。そして今更拒絶されるのが怖くもあったが、それも当然の報いと受け入れた。


水樹は明人が生きてたいた事にまずほっとし、そして明人が痩せ過ぎているわけでもなくスーツまで着てうんと素敵な大人になっている事が嬉しくて寂しかった。つまりはここが現実で、あの頃とは違うし明人は結婚だってしているかもしれない。そしてその時やっと水樹の足が地に付いて、それから二人は同じ答えを持った。


会うべきではなく、話したい事もなくて、一緒にいた時間の何倍も離れていた事は既に埋められない事実だ。


明人は水樹をあんなに泣かした事や、調子に乗った酷い態度と、それから無責任な言動の鈍い記憶と鋭い後悔に支配され、罪の意識で全身がプレスされて心臓も強く握り潰されそうになっていた。


そしてあの時はごめんね、と体を動かす指令を絞り出し背を向けて神社から出ようと試みたが、ここへきて堀田の荷物が重くてなかなか思うように動けなかった。それでもこれで終わりだからと奮い立ち、なんとか目線を外して一礼した。


今日までの時間は長く、だからこそ水樹と自分を傷付けた過去を忘れずに、これから多くの患者さんの心を救っていくと明人はここで誓う。


もう会わない。


元気で。


明人は背を向けた。その瞬間大袈裟ではなく、どんな時も泣いた記憶なんてないのに初めて涙が頬をつたった。でもきっとこれは始まりの涙なんだと思った。そして明人は歩きだして、それからねじれの線はどこまでたどっても重なる事はないんだからと納得しながらジャリ、ジャリッと足音が響かせた。

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