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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
254/263

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「いや・・・。確かめてから自分で手放すよ。それに売っても大した金額にならないと思う。安物だったから。」


「わかった。じゃ俺行くわ。」


「ああ。」


「あのさ・・・。俺も堀田もさ、奥さんの事をもうすぐ10年愛し続けている事になる。それだと素敵な話と称賛されるよね。でも付き合ってない人にそれをするのは御法度でイタい人扱い。」


「何が言いたいの?」


「別に!でも俺はイタい奴を二人も知ってら!」


勇利は後ろを向いて手を振りながらホームへ歩いていき、明人は勇利とは違う線のホームに向かった。自分に今まで好きな人が出来なかったのは忙しすぎただけで、それに今日からもうどんな景色を見ても、街で突然出会っても、目を逸らさずにいける自信がある。


久しぶり。と声を掛ければ無視をされるだろうか。でも決してそんな人じゃなかった。明人の中で二十歳のままで止まっている彼女は、きっと変わらぬ笑顔で懐かしんでくれるはずだと明人は思う。


午後8時。明人は自宅とは違う駅、6年通った学校がある駅で下車し、卒業してから一度も訪れる事のなかった神社に向かった。そこで国家試験に合格した報告をして、それから、彼女との一番濃い思い出の場所でも心が悲鳴をあげないと確かめてから、指輪を神様に返すつもりだ。


徐々に近付くと、暗いけれどこんな小さな神社でも夜は灯籠の灯りが日本的で風情があった。ただ、鳥居をくぐり首を180度回しながら奥に進み始めると、変わらぬ景色が瞬時に明人をあの頃に連れ戻そうと仕掛けてくるのでそれを必死にこらえなければならなかった。


そしてその努力は無駄だった。二人でよく座った端っこの石段だ。


「あっ・・・。」


稲妻が落ち、想像できるわけもなかった身体の硬直になすすべがなくなる。


失くなったレポート用紙、指輪、そして彼女。勇利の言葉が駆け巡る。


‘偶然が3つ揃えばそれは運命なんだ。’


呼吸が停止し、その直後の尋常じゃない速さの脈と、息切れ、発汗、声なんて出るはずもなく、目が合うと彼女の方も動きが止まった。


絶対に綺麗になると、本当は明人にもわかっていた。でもあの頃以上になんて綺麗になって欲しくなかったのだ。


明人も水樹も、時間を止めずに生きていた。

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