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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
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「あっ・・・。」


「なんだったの?」


「4年の時に失くしたレポート用紙です・・・。」


「今頃?どうして?手紙は?」


「入ってないですね。」


「引っ越しで荷物整理したら出てきて返したってとこかな?」


「ですかね。そういえば、来週堀田結婚式なんですよ。」


「おー。この前奥さんと遊びに来たよ。若い奥さんもここの卒業生みたいだね。お幸せにって言っておいて。」


「わかりました。」


「長谷川は結婚は?」


「いや、やっと来月から働く所ですし、彼女いないんで。」


「だろうねえ。卒業おめでとう長谷川君。それから研修医頑張れよ。」


「はい。ではそろそろ失礼します。」


それから明人はこの校舎を出てすぐに、懐かしいレポート用紙をパラリとめくってみた。


うわ、やばい。俺達こんな事書いてたっけ。と青臭過ぎて赤面したものの明人にとってあの頃の事はあまり思い出したいものではなく、直ぐに閉じようとした。すると、最後のページに差出人であろう人からの手紙が記入されている事に気が付いた。


‘今日一緒に帰りませんか。’


9年前の二人の交換ノートはここで終わり、でもここから二人は始まった。そして彼女宛に最後に明人が書いた恥ずかしい一行の下に、差出人の謝罪が書いてあった。


明人と彼女とのこのレポート用紙のやりとりは何人かにはバレていて、差出人は明人の事が少しの間好きだった為に覗いてしまい、ショックで思わず持ち去ったと書いてあった。そして最近差出人の暮らしが大きく変わる事になり、自分で捨てる事が出来ずに先生に郵送したそうだ。


先生に見られるかもしれないし、明人も返されても処分に困るし、気にせずに捨てておいてくれた方が良かった。それからその自分勝手な女子は一体誰だろうと考えたが、詮索はするつもりはなくましてや全員の名前を言える自信もない。


全て終わった事だ。だとしても学校からの帰り道の景色は強烈に酸っぱくて、何年も過ぎているのに胸がざわざわした。それが当時一人で見たものだったら、懐かしいな、だけで済むのだろうか。


彼女は愛され上手だった。そして困る程に愛された。そして明人は、彼女なら多分元気に誰かと幸せに暮らしているだろうと当たり前の予想をした。

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