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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
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「あのっ・・・。私達は全員揃って卒業ですか!?」


「なるほど。君が来た理由はそれだね。うーん、今の段階では、彼は卒業式には来れないんだよね。」


そんなっ・・・。カッと目が熱くなった。


「ただねえ、もし就職でも決まっていたら、追試や補習で補ってやれない事もないけどねえ。実は今、留年せずに退学するって言いに来てたんだよ。」


「先生、一緒に卒業しないと、長谷川さんは絶対に同窓会に来ません・・・。このまま消えそうで心配なんですっ。」


「考え過ぎだよ。にしても偉く気に掛けてるね。立花は長谷川のなんなの?」


「私は長谷川さんの・・・なんなのでしょうか、先生・・・。」


「おいおい、卒業式は明後日だよ。はい、ティッシュ。」


水樹はティッシュで目を抑えた。


「そうだなあ。彼はさ、根は誠実な男だと思うよ。ややこしい年頃なだけで。」


「はい・・・。」


「夜に長谷川の親御さんに電話する予定だったから、最後に本人の気持ち確認しとくわ。それで希望してくれたら、単位も出席日数も足りないのは少しだし、該当する教科の先生にもう一回話してみるな。でも本人次第だぞ。」


「わかりました・・・。」


「クラス代表さんはお節介だね。長谷川は今のこの優しくて明るいクラスだったから、ここまで退学せずに頑張れたんだと思うよ。」


「先生・・・。」


せっかく止めた涙がまたにじむ。


「今の言葉、心に響きますね。近頃の中ではで一番嬉しい言葉でした。本当に色々ありがとうございました。」


「カップそのままにしておいていいよ。」


部屋を出て非常階段から教室に荷物を取りに行き帰宅して、そして自室の机に座ってボンヤリした。今日は久しぶりに明人と話せた事が嬉しかった。眼鏡のケースをくれて、相変わらず優しい明人だった。


「えっ・・・?」


眼鏡ケースからチョコを全て出していると、付き合う前に二人でした花火の時にはめてくれたおもちゃの指輪が残っている事に気が付いた。おそらく明人はここに入れてあった事を忘れていたのだろう。


思い出というものは、前を向くのを邪魔しにくる。


はあ。とため息をついてそっと唇に手をやり、目を閉じて一番楽しかった頃にしがみついた。そして水樹は、眼鏡ケースといい処分しなければならない物をまた増やしてしまったのだった。

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