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1年2ヶ月7日。明人と水樹の交際期間だ。水樹は学校では滅多な事がない限り思い出して泣く事はなくなってきたけれど、自宅ではまだ駄目だった。明人からのプレゼントの品を眺め、それから貰った手紙を読まなければいいのにまた読んでは号泣する。明人の少し遠慮がちな丁寧な文面のファンで、3通目、4通目が欲しかった。
もう冬だ。もうすぐ12月も終わる。卒論の準備やテスト、しなければならない事は毎日あり、ただし水樹の場合はどんなに忙しくても失恋の傷は癒えなかった。そして別れを告げられた時に受けた衝撃が体に残り続けていて辛かった。
忘れないといけないと思うから苦しいのかもしれない。このまま、片思いに戻るのはどうかと思いついてみる。そしてため息が出た。
もうすぐ水樹の誕生日でその日は日曜日で、絶対に無理だと思うけれど明人に会いたい。
‘日曜日話をしませんか’
水樹は携帯の画面に入力した文字を表示させたまま、30分眺めてから送信した。激しく緊張し、でも返事はなくて当然で、だから無視されても傷付かないと言い訳して待っていないふりをして返事を待った。
‘バイトがあるから土曜日ならいいよ’
嘘・・・。
どうして・・・。
驚いた事に直ぐに返事が来た。明人に会える。ドキドキする。それから淡い期待を持つ。ドキドキドキドキして、週末が待ち遠しくて、ご飯も久しぶりに沢山食べられて、水樹は結局明人から全然抜けられていなかった。
そして当日、明人はあの頃のようにいつもの車で迎えに来てくれた。水樹はこの車にすら愛情があり、明人が視界に入ると嬉しさで笑顔を抑えきれなかった。
水樹は今日、絶対に泣かないと決めている。そしてもし振られたら今日を最後に、どんな手を使ってでも明人を乗り越えてみせる。
「お寿司食べたいな。」
「いいよ。」
「カラオケ行こ。」
「いいよ。」
「ドライブしたい・・・。」
「わかった・・・。」
別れる前に続いていた重苦しい雰囲気はなくてもなるべく空気が悪くならないように、明るい会話を心掛けた。明人は笑っている。やっぱり大好きだなあ、と痛感する。それから山の上の景色の良い所で、車を降りて静かに隣に寄り添った。




