表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
236/263

236

「怪我してないよね?」


「怪我してるのは水樹ちゃんでしょ?」


「あっ・・・。そうだね・・・。はは・・・。」


明人と別れたと友達に報告しないのは、まだ認めたくなかったからだ。でも礼にはきちんと報告しようと思う。


「あのね、明人君に・・・。」


声が詰まって涙が出る。でもこうやって報告する事は水樹にとって大義があった。


「振られた・・・。」


「嘘・・・別れたの?」


水樹はコクっと頷き、結局泣いた。振られてから3週間が過ぎても、何も前に進んでいない。でもそれは違う。前になんて進まない。水樹はあの頃に戻りたいのだ。


「ごめん。もう少ししたら泣き止むから。ごめんね。」


苦しくて、苦しくて、明人が大好きだった。


「あっ・・・。」


水樹は体に大きな礼の両腕の温もりを感じた。


「泣いたっていいじゃん。気にする事ないよ。一人分の涙くらい僕が吸収するよ。だって人にはあえて表情があるんだもの。涙はね、水樹ちゃんの悲しみを僕に知らせる為にあるんだ。」


泣いてもいいの?ほんとに?とうっ、うっ、と礼の温もりの中で泣いた。


「僕、大きくなったでしょ?手もこんなに長い。水樹ちゃん頑張れ。大丈夫だよ。努力すれば不安は期待に変わるよ。そして希望になる。希望はね、心の一番深い所にあるんだよ。」


返事は出来ずにもっと泣き続けたが、初めて他人に吐き出したおかげで、少しだけ気持ちがスッキリしていくのを感じていた。


「僕達が30歳になった時、もし二人とも独身だったら結婚しようか。」


「あはは。凄いプロポーズだね。わかった。そうする。」


礼のおかげで涙が減っていき、ありがとうと伝えた。そしてそう励ました前田礼は、大学卒業後に起業し、23歳でクラスで一番に結婚する事になる。


水樹はまだ明人の事をどうやって受け入れれば良いかのかわからないけれど、なんとか頑張ろうとおまじないのように唱えた。そして次の日、担任の先生に呼び出され、以前に見学に行った博物館から再び連絡があったと教えて貰った。他の人を探したけれど、良い人が見つからず、働いている外国人のスタッフが水樹を覚えてくれていて指名してくれたと先生が教えてくれた。


「その話、お受けします。未熟者ですがよろしくお願いしますとお伝え下さい。」


水樹は思った。自分は周りに生かされている。だから無理せずに少しだけ歩こう。と。


それでも明人には卒業までにもう一度だけ気持ちを伝えたい。そしてそれで終わりにしようと決心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ