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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
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約束の朝、明人は遅刻せずに現れた。二人でよく利用した学校近くの公園のベンチに座り、水樹は泣きながらも必死に説得を試みた。


「絶対に別れたくない。私の事嫌いになったの?私もっと変わっていくから。」


「ずっと好きだよ・・・。それに悪いのは俺だから。」


「じゃあなんで?わからないよ。どうして急に別れる所まで話が飛ぶの?」


「うん・・・。沢山悩んでもう決めた。」


「明人君がいないとどうやって生きていたらいいかわからない。苦しいよ。」


明人は唇を噛み、苦しそうに答えた。


「自分の足で立って欲しい・・・。」


会話はそこで終わり、水樹は号泣した。明人は黙ってそばに居続けたけれど、水樹にタオルを貸しただけで、涙も拭かなければ抱き締めもしなかった。


もう明人の瞳にはうつらない。別れると明人の人生から除外される。受け入れられない。あの頃に戻りたい。一緒に暮らそうと押し付けて、明人の人生に乗っかり苦しめた。でも別れるまでどうしてしなければならないのかわからない。


それからも毎日泣いて、でも学校は行って、明人を見ては胸が苦しくて、ヤキモチをやいてまた泣いて、ただどんなに泣いても涙は枯れないと知り、突然死んだりできないかと思い、でも自殺までは出来なくて、別れを告げられた日から一歩も前に進めなくて、明人のいない毎日を受け入れる事が恐くて辛くて、毎日何をしていればいいのかわからなくて、自分がどこに存在すればいいのかわからなくて、水樹は、ただひたすらに苦しかった。


そして明人に振られてからは時の進み方の遅さに苦しんだ。それから携帯電話の存在は心を情緒不安定にした。学校で明人が誰かと話をしているのを見てしまうのが残酷だった。この前まで、水樹は明人の特別だったのに、今は名前どころか存在すら忘れられているかもしれない。ただ、明人自身も学校に来ない日が少し増えた。水樹は大丈夫かなと心配で、そして心配してもいい立場に戻りたかった。


気を抜くと実験中なのにまた泣いてしまいそうになり、一人で器具を洗って気持ちを整える事にした。友達にも、別れたとはまだ言いたくない。噂が勝手に広まってくれれば良いのだ。


「水樹ちゃん、どしたの?黄昏中?」


「あ、礼。あは、そうだよ。水樹ちゃんは人生の幸福とは何かを考えていたのです。」


「答えはなんだったの?」


「もうっ。意味不明だよって、笑う所だよ。ははは・・・。」


まだ何一つ立ち直っていなくて、少しのきっかけでも涙が出る。目が充血してきたけれど、泣きたくないから(こら)えた。


「水樹ちゃん・・・。僕指を切ったから来て。」


礼について行き、誰もいない準備室に移動した。

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