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明人は同棲も結婚も望んでいなかった。傷付けそうで言えないだけだった。でもこのまま流されてする事になるかもしれない。そうなればそれでもいいかもしれない。そんなまとまりのない心のまま、明人は頑張って無理して水樹に会う。誰にも理解できないかもしれないけれど、明人は自分の恋愛能力以上に頑張っていた。それは相手が水樹だからだ。
けれども車に乗り込んだ水樹の表情は暗く、だから車をすぐ近くの公園の駐車場に停車し、話をする事にした。
「機嫌悪いなら今日は止めとこうか。」
「機嫌悪くないよ。」
明人は水樹を見つめた。
「嘘だよ。やっぱり帰る。」
次の瞬間水樹は大粒の涙を3粒程こぼした。
「あのね、夏休みね、明人君とあまり会えなくて悲しかった。就職とか試合とか終われば去年みたいに一緒にいられるって我慢してた。なのにそうはならなくて、でも友達とはいつも遊んでるの知ってるから悲しみでいっぱいになった。」
「ごめん・・・。」
追い詰め合うから明人は喧嘩は苦手だ。
「せっかく約束しても寝坊ばっかりだし、私は1分でも長く一緒にいたいのに、でも明人君はそこまでは会いたくないんだよね。もう全部わからない。苦しいよ。」
だんだん泣きじゃくり始めて、だから泣かせてしまっている事にすぐ反省した。
「これからは努力する。だからごめん。」
「努力って言葉変だよ。そんな明人君嫌いだよ。このまま今の宙ぶらりんの状態じゃ頑張れない。もっとちゃんとこれからの事、二人にとってどうするのがいいのか考えて欲しい。」
「ごめん。ちゃんと考えるよ。」
明人は水樹の涙を拭き、抱き締めながらなんとか今の不安を取り除いてあげたいと思った。それでも・・・。それでも嫌いという言葉が嫌いだった。二度と言わないで。確かにそう言ったはずだった。
水樹に言われた通りに明人は二人にとってどうする事が良いのか真剣に考えた。これからの二人の幸せを考えた。最近は笑顔に出来なかったけれど、水樹の慈悲深い優しい心が好きだった。
そこから10月の初旬の夜、明人は水樹に久しぶりに電話を掛けた。




