226
そしてまた車を走らせて聞いた。
「昼寝したいな。ホテル行く?」
「え、あ、うん・・・。」
水樹は明人に夢中だ。明人が手を広げればすぐに飛び込むし、目を閉じれば唇を近付けてきて、したいと言えばいつも抱き締めにくる。忠犬ハチ公、ではなくて愛犬ミズ公でとてもかわいい。だから、待ち合わせも明人が起きてから連絡する身勝手な形に変化してきても、水樹は嫌な顔せずに受け入れてくれるのだ。
ホテルに着くと、キスをしてから水樹に髪の毛を撫でてもらいすぐに寝入った。同じ部屋にいるだけで明人は満足できるし、したくなればしてもちろん水樹からも来ればいい。
それから明人は起き、そして水樹は明人から離れてぼーっと座っていた。
「来る?」
水樹は頷いて明人の胸に飛び込んだ。もうここには指一本触れただけで緊張していた二人はいない。でもあの頃よりは確実に情も生まれているし、そばにいて当たり前の大切な存在になっている。就職して、一緒に住んで、このまま行くと結婚だ。
結婚?明人と水樹は今まで頻繁に結婚という言葉を交わした。明人は水樹が好きだった。でも何故だかイメージが湧かなくて、それでもそのまま言葉少なく水樹を抱き続けた。
水樹は水樹で友人達が進路を決め進んでいく中、一人立ち往生していた。そして担任の先生と面談し、自分の現段階の方向性と、就職、進学への不安を伝えていた。
小学校、中学校は勉強も運動もでき、神の子と別のクラスに噂もされるくらいに水樹は有名で、でもそれは無難にそつなくこなしていただけであり、今よりもっと勉強もしていたおかげだった。
水樹は当時から飛び抜けて好きな事はなく、偏差値が70は必要なこの学校に入学した後は、同じ程度の群衆の中で普通の人になり、更には入学後から今までの学生生活の中で真の天才に出会っては驚愕させられた。
天才達は不思議とガリ勉タイプでもなく、サラッと爽やかに自由に生きていて、ただ、全教科優秀というよりは人によって突出した才能を発揮する分野があるようで水樹は心から尊敬していたのだった。




