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ある休日、目を覚まして明人は電話を掛けた。
「ごめん、今起きたから今から用意して車で迎えに行く。」
「体調悪いの?無理しなくていいよ。」
「大丈夫。」
明人と水樹が付き合い始めて10ヶ月が経過した。つまりは惹かれ合って1年、季節は一巡し、恋人同士のイベントも1回目が終了した。明人は今も水樹の事を疑う余地もなく愛していたがやや落ち着きを取り戻していた。それに当然平日は忙しく日曜日はアルバイトもあるわけで、だから特別に決めたわけではなくても土曜日に遊ぶ事が多かった。
そして明人は昨日の就職の面接が手応えがあったので気持ちが楽になり夜は飲みに行っていて、その結果起きたのが午後になったのだった。
春に就職した明人の友人達は、元々騒ぐのが好きで明人も飲みに誘われる事が増えた。それに急に給料を手にした友人達の金遣いは荒くて、終電も気にせず酒を飲んではタクシーで帰宅し、便乗した明人の生活も明らかに去年より乱れていた。
明人は起きたもののまだ眠かったので本心はこのまま自宅でゆっくりしていたかった。でも変わらぬテンションで会いたがってくれる水樹の気持ちを思うと会いに行かないわけがない。
明人が目覚めてから水樹を迎えに行く。ここ最近の待ち合わせはもっぱらこんな感じで、いざ会ったとしても特にしたい事もなくて、ことさら明人に関しては水樹がそばにいてくれるだけで満足していたのだった。
水樹を拾うと車を走らせる。
「飯食った?」
「ううん。まだ。一緒に食べようと思って待ってた。」
先に食べておけばいいのに、と明人は思った。牛丼屋に寄りまず食事し今日したい事を話す。でもまだ眠くて牛丼を食べている最中も、話をしている時もついあくびをしてしまう。つまり、あまり気を使わなくてもいい関係までに二人は到達していたのだ。
「眠いの?」
「昨日さ、面接終わったせいで開放的になり過ぎてついはしゃいじゃったんだよね。」
「面接どうだったの?」
「なんか歴史の話とかで盛り上がっちゃって、まあ大丈夫だよ。」
「合格したらいいね。」
「うん。地元採用だし、受かればこれからも水樹とずっと一緒にいられるしね。」
「私も絶対に地元で就職する。離れるとかは想像できないもん。」
働いてお金がたまれば一緒に暮らす事も可能だ。そうなると毎度遊ぶ場所を考えなくても良くなるし、同じ空間内でそれぞれがしたい事をすればよく贅沢だ。特に水樹はその気持ちが強いのを明人は感じているので、その気持ちには応えてあげたかった。




