217
ピンポンとチャイムが鳴った為オートロックを解除し、もう一度玄関のチャイムが鳴ってからドアを開けた。
「お邪魔します。」
明人の両親は跡取りも必要ないような小さな会社を経営していて土曜日は隔週で仕事があり、今日も水樹は誰もいない明人の家に遊びに来た。今日は水樹の生まれた日だった。
「洗面所借りますね。」
家には誰もいないのに隠れるように明人の部屋で過ごす。
「えっ。堀田さんは1年生のマネージャーとお付き合いされたんですか。そうですか・・・。よ、よかったですね。」
「ぷっ。我慢しなくていいよ。正直に感想言いなよ。」
「そんなっ。何も思ってないんだから指摘しないでっ。」
「何赤くなってんの。堀田がロリったって皆にいじられてるよ。」
この頃の年の差は、どうしてだか物凄く開いているように感じてしまうし、かつ羨ましさの反面で冷やかされてしまうのだ。
「幸せならなんだっていいの。堀田さん角刈りを5年間貫くし面白いし良い人ですし私も好きです。それに春から社会人なんて立派でお仕事も頑張って欲しいです。」
「同じ年なのにな。勇利や、皆も・・・。」
明人が留年したのは自分のせいとは言え、落ち着いて周りを見る事が出来た今年度は友人の進路の報告を受ける度にその差を感じて少し後ろめたい気持ちにはなった。
「勇利さん・・・。大学に編入後一人暮らしするんだよ。」
「うん。ところでさ、単なる興味。勇利さん、てどうやって呼び始めたの?」
決してやきもちじゃない。
「あは。そんなの忘れたよ。きっかけもなかったと思う。皆が呼ぶから、とかかな?」
「長谷川さん・・・。」
「え?あ、前から少し気になってたんだけど、いつまでも名字は変かな?なんか照れ臭くて。」
「いや、別に・・・。そういやさ、間宮、妊娠してるんだって。だから内定も取り消したみたい。」
「えっ。」
驚いて黙った後水樹は答えた。
「ごめん。間宮さんに関しては何も感じないよ。私冷たいんだ。」
「そうかな。それにたまには感情に正直なのも別にいんじゃない。」
「相手って・・・?」
「10歳上だって。卒業したら結婚するらしいよ。」
「そっか・・・。幸せになって欲しい、なんて押し付けがましい事は言えないけど、間宮さんかわいいからきっとかわいい赤ちゃんが生まれるね。」
「うん・・・。」
以前の同級生の進路について話していると、明人は頭が重くなり深いまばたきを一度だけした。
「長谷川さんは就職するの?」
「うん。水樹は?」
「もう決めておかないといけないんだよね・・・。」
重い空気になった。




