214
朝目を開けると先に天井が見えた。
あ、まだホテルにいる・・・。腕がだるい・・・。水樹・・・。
目覚めた瞬間に好きな人がそばにいる特別な幸福感に包まれていた。そして明人はぷっと吹いてからふんわりと笑った。水樹はいつの間にか服を着ていて、こういう動作が水樹らしくてかわいい。水樹を愛さずにはいられない。そして水樹の純真な寝顔を見つめるとため息が漏れた。
ああ。ほんとに俺達・・・。はあ。まずいよ・・・。と昨夜のかわいい姿が脳裏に蘇ると一人で赤面し、明人は自分がこんなにも人を愛してしまう普通の男だったと驚き感服した。そして明人が水樹の髪を撫でていると水樹が目を覚ました。
「おはよ。」
水樹は一度明人を見た後に照れながら明人の胸にうずくまった。その行動がかわいくて明人はまた触りたくなる。
「おはよ。」
水樹の背中を擦り、それから胸に手を伸ばしてみた。単純だった。彼女の最後の温もりを知ると同時に、今まで頑ななまでに彼女に触れないように気を付けていた誠実な男は抹殺されてしまったのだ。
「こら。」
「駄目?」
「え・・・。駄目じゃないけど・・・。それにそのかわいい言い方ずるいよ。」
二人寝そべって、くすぐったい雰囲気で肌を寄せあった。
「両思いっていいね。」
へへへ。と水樹が笑うと明人は男ながらにキュンとしてしまった。そして返事をする代わりに軽くキスをして、起き上がり朝の支度を始めた。
「立花さん。もうすぐ誕生日だね。俺、サプライズとか出来る男じゃないから、何か欲しい物があったらストレートに言って欲しいな。」
「何でもいいって言ったら困るよね?」
「うーん。初めてだし俺一人で考えてみるのもいいけど・・・。そうする?」
「うん。ありがとう。嬉しいな。私は長谷川さんの誕生日は、苦手なバナナクッキーあげたんだったね。」
「そうそう。だから帰り道で猫にプレゼントしといた。」
「酷いなあ。もう。」
「あはは。嘘に決まってるじゃん。頑張って全部食べたよ。」
「うん。知ってる。あはは。」
気のせいかもしれないけれど、明人には水樹が少し変わったように思えた。そして明人自身もだった。今日からまた始まりで、明人と水樹はこの先もずっと一緒にいる。それ程強く思えるのは、昨夜のせいでも一時の盛り上がっている感情のせいでもない。
二人は朝食を済ませ、チェックアウトをしホテルを後にした。それからその後の旅行の2日目は観光地らしい場所で食べ歩きをし、お土産を買ったり施設を見学したりして爽やかなデートを楽しんだ。そうして最後は水樹を指定席に乗せ、二人の街へと帰っていった。




