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水樹がグランドのベンチに座る数時間前には、マネージャー候補が見学に来るかもしれないという速報が既にハンドボール部員の間に広まっており、当然勇利に発破をかけた張本人の耳にも光速で到達していた。
ゆーりー!
歓喜の雄叫び。彼は学校の中心で勇利を叫んだ。そしてまだ見ぬ少女を妄想して暴走した。
ガキには興味ないと言いつつも、すれ違う他の学生達の冷ややかな視線に気が付かない程浮わついている。それから何の効果があるのかも不明であるのに彼はわざとクラブに遅れて行く事にした。
上着も一枚脱げるくらいの最高の気候の下、スポーツドリンクを1本購入してからグランドに向かう途中では、自分にとっても入部してから初めての後輩マネージャーだと改めて意識し、もう気持ちを隠せない。
あーすっごい楽しみなんだけど。やばいやばい大人の魅力っと。しかし惚れられたらまじやばくない?ないないないない、俺は止めとけって、俺はガキには興味ねーっての。
こうして浮き沈みの無限ループを繰り返しながら進むとグランドのベンチが段々近付いてきた。
いるじゃんまじで。
ゴクッと聖也は唾を飲み込んだ。
「おつかれ。」
クールに声を掛けてからスポーツドリンクを女の子の頭部に当て、そして振り向いた女の子のデータを脳が解析した。
ズッキューン。
ミサイルなのか爆弾なのか。時間にすれば瞬きを一度する程の一瞬に、確かにその攻撃はあったのだ。
そう。完全に聖也のタイプだった。戦闘不能の聖也は混乱している。でも表情を1mmも変えなかった。
聖也はさりげなく彼女の隣に腰掛けドリンクを手渡すと、彼女の大人っぽいような子供のような、そのアンバランスさに妙にドキっとした。
「あのっ、ありがとうございます。」
「どこのクラス?」
「Aです。」
「まじ?勇利もAだぜ。勇利知ってるよね。君を勧誘した2年の奴。」
「はい。今日のお昼休みに突然話し掛けられてびっくりしました。」
「はは。驚かせちゃってごめんね。大丈夫だった?何もされなかった?」
なんて、聖也は余裕のふりして冗談を飛ばす。
「当たり前です!何言ってるんですか。」
なっ・・・。
聖也の眉間にシワが寄る。なぜなら面食らったように笑う水樹はやっぱりまだ幼さの方が勝っていて、なんて表現すれば良いのか思いつかないけれど、まだ何にも染まっていない純粋な笑顔に・・・今度はもっとドキドキした。水樹はまだ15歳なのに。




