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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第四章
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分かれて入浴し、体を丁寧に洗って湯船に浸かる。キスより先を知らない子供がこの旅行を計画した時、明人に対してそれが嫌いなのかと迷いもあった。そして水樹は心の内側がバレて軽蔑されないかと懸念する。でもそんな矢先に元恋人の浅井佐和子に遭遇してその考えは否定された。


水樹は傷付いた。佐和子がもっと印象の悪い女性だったならこんなにも歯痒い気持ちにならずに済んだかもしれなかった。佐和子は凛とした綺麗な女性だった。明人は面食いなんだと思った。加えてこの難しい明人とどうやってそんな雰囲気になったのかと考えた。そして明人が佐和子の裸を見たのだと想像すると胸が張り裂けそうだった。


でも、人の性の部分に触れるべきではないと自省し、もし今夜何も起こらなければ自分から寄り添いたいと思う。けれどもそれが気に障り嫌われたら、もうこの先付き合い続ける勇気はないと怖くて、あの時ぶりっ子して聖也を拒まなければもっと自信が持てたかもしれないと最低な事を考え、こんなだから聖也にもふられたのかと自虐する。


明人を愛している。あれこれ悩むのはごく自然に生まれてくる等身大の18歳の気持ちであり、だから自分に素直でいたい。


そして更衣して髪を乾かし一つにまとめ、待ち合わせ場所に行った。そこには予定より30分早く入浴を終えた明人がいて、備え付けの冷水を飲みながら水樹を待っていた。水樹がやってくると、明人はドキッとしてグフッとなった。水が気管に入ってしまい窒息したのだ。


「いっぱい待ってた?」


「あ、いや・・・。」


風呂上がりの浴衣。いつ見ても水樹は美しくて可愛くて、そして心の中心から優しく自分のどこがいいのか明人はわからない。だからこそ水樹の好きという気持ちが確認できた時は安心する。


「長谷川さんはビール飲まないの?」


「今日はやめとく。」


「ウノ持ってきたよ。」


ウノって。と明人は癒やされ、やっぱり水樹は水樹だな、とらしさに安堵した。それから同じ柄の浴衣に身を包み、湯船で温まった体がクールダウンする前に同じ部屋に戻った。


「俺ウノも強いから。」


「私も頭脳戦得意だよ。」


水樹は水を飲んでから歯を磨き始めつられて明人も歯を磨く。そして、せめて手を繋いだまま眠れますように。と働きすぎてオーバーヒートしている心臓を冷やそうと明人はふう。と深呼吸をした。


「ウノ、しよっか。」


水樹はいつもとは違い離れて座った。


「ウノ。」


「ウノ。」


「ウノ。」


「ウノッ。」


うっ。とえずくと明人はこの状況にギブアップした。


「飲み物買ってくる。」


明人のウノ人生で、こんなに気持ちの入らないウノは初めてだった。

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