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「誰ですか?」
「同じ中学の女バレの、長谷川君より一つ上だった沢渡と浅井。久しぶりだね。」
誰ですか。と敬遠したけれど二人組の一人、浅井佐和子の名前を明人はうろ覚えながら思い出した。その一連の様子に、ドクンと水樹は嫌な音を鳴らし、女性達と明人を交互に見た。そして明人の顔から表情が消えていく様を察知し、まずいな、と無表情になった明人をこわごわ見守った。
「もしかして満席なんですか?良かったら一緒に座りますか?」
「いいの?ありがとう。長谷川君の彼女だよね。超かわいいんだけど。あ、私は由夏でこっちが佐和子。でも結局長谷川君てやっぱりちゃっかり面食いなんじゃん。ね佐和子。」
「さあ。彼女さん、座らせてもらってもいい?私達の事は気にしないでね。勝手に二人で食べてるから。長谷川君もごめんね。」
「まあ満席なら・・・。」
「長谷川君ほんとに座るよ?それからまた恐い顔になってる。ほんの少し垢抜けたけど、無愛想な所はあんまり変わらないね。」
二人共が明人の事をよく知っている事に併せて、今の学校では明人が女子と長時間話すのをあまり見た事がなかっただけに、急に現れた意味有りげな女性達に水樹は軽くショックを受けてしまった。でも、異性の友達なら自分にだっているし自分勝手にモヤモヤするなんて最低だ。と直ぐに自分をたしなめた。
「長谷川さんはあんまり変わってないんですか?」
「俺に触るもの皆傷付ける、みたいな?中二病満載!」
「怒られるよ。ごめんね長谷川君。由夏ちゃん昔からこんなでしょ?」
「知ってるよ。悪気も裏表もないけど強引で迷惑だったし。」
「なはは。はっきり言い過ぎ!いやー、長谷川君て中学の時は関係ない女の子と全然話さなくてさー、今はこんなかわいい彼女と普通のデートが出来てるんだから多分中身は相当変わったんだね。」
「もう行きます。この席広く使って下さい沢渡さん。それから俺の彼女人見知りなんで、道で会ってももう話しかけないで。水樹、いこ。」
「う、うん・・・。」
ただの先輩に、どうしてそんなに尖っているんだろうかと水樹は悲しくなった。そして明人が沢渡由夏には敬語なのに対して、浅井佐和子には友達口調だった事がひっかかる。それより何よりそんな細かい事に気付いてしまう自分が嫌だった。そこにはいつも何でも受け入れてくれた明人と違い、狭量で悲観的な水樹がいる。でも水樹はやっぱり気にせずにいたい。人には過去がある。そう教えてくれたのは他でもない最愛の明人だ。
手を引かれたままついていき、そして一度明人の手を強く握ってみたけれど、前を向いたまま歩き続ける明人の冷たい手からは何も伝わってはこなかった。




