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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
20/263

20

水樹達の過ごすこの学校はいくつかの棟を並べて校舎が建てられていて、その校舎と校舎の間を抜けるように少し歩くとグランドに出る。


そして水樹は勇利とわかれて以来ずっと緊張が解けず、こわごわグランドへの通路を歩いていた。


グランドに近付くと、徐々に強くなる土の香り。土のにおいと汗のにおいは春の風に運ばれ、長い時間土埃(つちぼこり)から離れていた水樹の歩くスピードを加速させた。


水樹が通路を三分の一程進んだ頃、タッタッタ・・・と後ろから走る音が聞こえ、やがて音は徐々に大きくなり、水樹の横で止まった。


「場所わかる?一緒行こっか。」


トクッと一度心臓が震えると、勇利の可愛い言い方とその笑顔に水樹は赤面した。


「ちゃんと来たかー。あーまじ安心した。」


勇利も安心したのは確かなようで、今日水樹が見た中で一番にっこり笑うともっと質問を重ねてきた。


「名前聞いてもいいの?」


「立花です・・・。」


「名字だけ?ははっ。下は?」


「あ、水樹です・・・。」


「みずきちゃんか。名前もかわいいね。よろしくね。」


そんな台詞をさらっと自然体で言ってしまう勇利に水樹がドキドキしないわけもなく、そして勇利に誘導されながらグランドまで一緒に歩いた。


「だけどさ、ハンドボールなんて知らないよね?俺も入部まで全然で。でもさ、ある先輩に憧れて入部したんだよね。」


「そうなんですか。」


「探さなくてもすぐに絡みにくると思うよ、聖也君。素直じゃなくてかっこ付けてて超面白いから。」


「はい。ここ、ここが俺らのコート。あんまきれいじゃないけどそこのベンチでも座ってさ、ゆっくりしてってよ!」


そう言うと勇利はチームメイトの中に溶け込んだ。短い時間だったけれど、水樹は異性と並んで歩くのは初めてで恥ずかしくてでも嫌じゃなくて嬉しくて、足が地に着いているようないないようななんて表現したらいいのかわからない、そんな夢の中にいるような感覚だった。


「どこのクラス?」


「Aです。」


「そうなんだ。あ、俺部長ね。何か聞きたい事があったら遠慮しないで。来てくれてありがとう。」


「集合ー!」


掛け声で練習が始まってからも、代わる代わる部員が話し掛ける。


「どこのクラス?担任誰?」


「名前は?何中?」


「暑くない?うちわ貸そっか?」


全員ってわけではないけれど、気を使ってくれているみたいでくすぐったい。そして始まったキャッチボールを見てしまうと水樹の肩はうずき投げたくなった。それに部員達は仲が良く、練習風景は案外楽しくて、また、勇利を目線で追ってしまうしで水樹は既に夢中になっていた。


「おつかれ。」


コツン・・・と頭が鳴った。


コツン?と水樹は意味もわからず振り返ると、直ぐ(そば)に茶色い髪の男が立っていた。

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