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放課後、今週末に開催される文化祭の準備に水樹とクラスメート達は積極的に取り組んでいた。特に水樹はクラス代表の為、指揮を取らなければならなかった。
「土星の輪にヒビ入ったあ。泣きそー。」
「木星が一番好きだけどね。」
「黒のダンボールもっと作らないとな。」
イベントが好きなメンバーが主にせわしなく精力的に働いている。その中で水樹も仲間に囲まれ、特に男子学生に囲まれ奮闘していた。それを明人はそっと見つめる。水樹は明人と違って誰とでも仲が良い。男子校ゆえ致し方ない事ではあるが男友達も多かった。
そしてそれに対極するように学校では用事以外は話さない明人と水樹だ。明人はこういう熱い空気は苦手なうえ留年生な事もあり文化祭の準備は手伝わずに毎日家に帰り、そして今日も例外はかった。
「長谷川さん待って。」
「何?」
水樹に呼び止められ、別に拗ねているわけではないのにとっさに無愛想な返事をした。
「あ、えっと、あの・・・。ごめんなさい。」
そして、なんで何もしていない水樹を謝らせてしまうのだろうと嫌気が差した。
「準備頑張って。でもあんま遅くまで無理しないで。」
「あ、いや、あのね。今日話があってね・・・。今からいい?」
明人は嫌な予感しかしない。とうとう何も手伝いをしない器の小さいこの男に愛想をつかしたに違いないのだ。
「わかった・・・。」
「良かった。すぐ帰り支度するから、駅のドーナツ屋さんで待ってて。それか一緒に帰る?」
考えて返事をした。
「先行ってる・・・。」
水樹は明人を好きだとあんなに言うけれど、明人を不安にさせる要素をいくらでも持っている。けれども明人がそう思っている事は水樹には絶対に知られたくないのが明人の心情だ。
そして入店すると、ふう。と深呼吸してからコーヒーを注文し、水樹の到着を席で待った。その間はずっと下を向いていて声だけで周りの様子を判断する。それから遅れる事10分、水樹が飲み物を持って明人の方に近付いて来た。ちらりと目を向けると水樹の表情はなんだか強張っていて硬かった。
3ヶ月、良く頑張ったよ俺にとっては。と思った矢先、え、何!?と目を丸くした。水樹は明人の向かい側には座らず、明人の隣に座ったのだ。
よくはわからないけれども不意の出来事にドキドキさせられて明人は悔しい。水樹はチラッと明人の方を見てはまた前を向いて黙っている。そしてこの不可解な間をなんとか埋めるように、お互い喉も乾いていないのに、不自然に飲み物を胃に流し込み続けた。




