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水樹の事は当然好きだ。でも礼にはガールフレンドも沢山いてそれ以上の関係の女の子もいる。だからつまりは水樹の事は好きではないし勇利との事を応援していた気持ちは嘘ではない。でもザワザワするこの胸が何に対してなのか戸惑いを覚え疑問を持つ。勇利だと良くて明人なら認めないのか。又は瞬介ならば良いのか。でもそれも何かが違って思えた。
礼は帰りながら考え続けたが納得する答えは見付からず、思い立って行きつけの美容室に顔を出してみた。
「予約してないけど今いける?ツーブロックで被せるくらい、ばっさり切って欲しいんだ。」
自分の不適切さと一緒に髪を捨てたかった。
「先週切ったばっかじゃん。それに伸ばしてるって。」
「いいの。なんか自分が許せないから。」
「ふう。髪切るって、失恋でもした?今時そんな事する人いないよ?」
失恋なんかではない。鏡の前で少し待たされると普段は洋楽が流れるこのフロアに、何故だか今日は尖った声の邦楽が流れている事に気が付いた。知らない曲達だったがかげりのある歌声に惹き付けられ、礼は何曲も聴き入った。そしてある一つの曲が気になり深く集中して耳を傾けた。
自分には彼女もいて、だから君の恋人になる気もないのにやきもちもやくし好きだという気持ちはある。でもそれもいいじゃない。
とそんな意味の歌詞を真正面から素直に読み解くと、なんというファジーで開き直った男の勝手を思いきり歌っている歌なんだと苦笑した。
「お待たせ。」
「どうして洋楽じゃないの?」
「気付いた?凄いね。実は昨日同窓会があってね。色々思い出しては懐かしくて、当時良く聴いてたアルバムを引っ張り出したんだ。超甘酸っぱいだろ?」
「うん。恥ずかしくて聴いていられない。」
少しも共感出来ないけれどもその曲と歌詞は頭に残った。そして、自分にはYESかNOしかないんだと改めて承知した。
でも。
ずるくてやたらと勘違いした駆け引きをする男という愛すべき馬鹿な生き物を、愛すべき者として受け入れようと礼は思う。
「5センチ切っていいかな?」
「あ、5センチじゃなくて5ミリね。毛先のはね方に遊びを残してフェミニンな印象にしたいの。」
「そ、そだね・・・。」
帰ったら親友として瞬介に連絡をして、何も出来なくてもせめて残骸は拾ってあげるつもりだ。それから瞬介が望むなら自分の知り合いを紹介してあげようと思う。そしてそれとは別に学校で水樹に会ったら、明人との話をたっぷりしてもらうのだ。
よし。と礼は頷く。これが自分で、皆の幸せが自分の幸せだ。つまりは水樹が幸せならばそれが全てで、それが礼にとっての幸せでもあるのだと礼はようやく答えを導いた。




