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北海道はほっかいどー!そのままじゃん!俺テンション高っ!
その時勇利は高揚していた。
受験勉強からの開放。国立に合格。そして残りの夏休み、今勇利は北海道でファームステイをして酪農のアルバイトをしているのだ。
でも都会っ子の勇利だ。しんどい、眠い、体が痛い、くさい・・・。と2週間の予定だけれどもう帰ろうかと臆する。それに真面目で堅くていちいちとこうるさいバイト仲間が嫌だった。
彼女の名前はセナで、勇利より少し早く来ただけなのに、バイトリーダーの様な雰囲気が鼻につくのだ。
「おはようございまーす。」
勇利が挨拶すれば他の仲間達も返事をする。
「おはようございまーす。」
それに混じりセナも勇利に挨拶をする。
「おはようございます。」
それだけだ。会話はなし。そして皆で黙々と掃除をして餌をやる。それでも勇利は負けじとセナに話し掛けた。
「セナさんて大学生?どこから来たの?」
「口が動くと手が止まるタイプなんだね。」
はっ?なんたる嫌味!こんなにも愛想良くしない女の子も珍しいよっ。と勇利は話し掛けた事を後悔し、それから勇利はセナとの会話は諦めて牛に餌をあげ始めた。
「お粗末さまでしたー。お粗末さまでしたー。お粗末さまでしたー・・・。」
聞こえているはずなのにセナに反応はない。勇利はまた腹が立って、一頭一頭にふざけた声を掛けながら餌をやった。
「お粗末さまでしたー。おそまつさまでしたー。からま・・・じゅうしま・・・。」
ついふざけて余計な事を言ってしまった。やば、また怒られるじゃん。と勇利はチラッとセナを見たけれど、ガンガンに無視されていて、だからまた独り言を投げやりな態度で言った。
「俺の特製超高級ブレンド餌いっぱい食べて、最高級のミルクを出せよなー。」
「宇野君て何者なの?学生?無職?」
まるで ‘バカ’とでも言いたげなセナに対してムッとしながらも、勇利は今通っている学校と、来年から通う予定の大学を、聞かれてもいないのに教えた。
「へえ。私と同じ大学なんだ。私は今2回だから年齢も同じ。」
まじか・・・。と仰天する。大学では勇利は工学部で、聞けばセナは農学部で、でもキャンパスが同じだった。そしてその二つの偶然に、勇利の心臓は少し振動した。




