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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第三章
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ひと気のない駐輪場で、ガシャンと自転車を準備し方向を変える為に明人はハンドルを握る。


「えっ・・・。」


なんで・・・いた・・・待って、た・・・?


心臓が止まった。そしてお互いに何も言葉を発さずに、更には同じような表情で、長い時間、ほんとは数十秒かもしれないけれども長い時間見つめ合った。


何か言おうか・・・。何を言おうか・・・。


と迷いながら思考回路をフル回転させた。自分を驚かせる為に、水樹は今日、わざと返事をしなかったのだろうか。


沈黙が続く。声にならない。ただ我慢できずに先に照れ笑ったのは水樹の方だった。そして明人もまだ目を逸らさずにいたから、つられて少しだけ微笑んだ。


目を合わせると気持ちの通り道ができるのか。昼間のぎこちなさなど吹き飛ばして明人と水樹はプラムの味のような空間に包まれた。


「あ、長谷川さんも遅かったんですね。」


明人は久しぶりに水樹の声を聞いたような気がした。


「うん。ちょっと野暮用で。」


「そうなんですね。お疲れ様です・・・。」


「まじで疲れたよ。」


そして二人はまた沈黙する。でも今度は長くはなかった。


「あの、長谷川さん・・・。」


「一緒にっ・・・。」


声が重なり合い、そしてそこまで言いかけて止まった。それからもう一度目を合わせて、次は明人がさっきよりも少しだけ大きく笑ってその続きを言った。


「一緒に帰ろっか。」


「えっ・・・。はいっ。」


少しだけ大きく笑った明人よりも、水樹はもっと笑って元気に答えた。明人はその姿を、純粋に可愛いと思った。


その後はお互いに自転車を漕いで行き、一緒にいられるギリギリの場所、近くの小さな神社に寄り道をして、今日する事が叶わなかったお喋りをし直した。


「嘘。俺のレポート用紙なかったの?」


明人は驚いた。駐輪場で会えた事、単なる偶然だったのだ。明人が水樹を認識してからあの駐輪場で遭遇した事はなく、だから今日に限ってこんな事が起きるなんて信じられなかった。まるで、春から今日まで二人を惹かれ合わす為に、わざといくつもの奇跡が用意されているみたいだ。


「今日も入れてくれてたんですね。私も机の中、何回も探したので間違いないです。盗られたんでしょうか・・・。」


「うーん・・・。目的はわからないけど、気付いてた奴がいたんだね。そういえばクラブでも和木にさ、あっ。」


明人は、自分と水樹がいちゃついていると思っているやつがいるとは言えるわけがなくて、言いかけた言葉を引っ込めた。そして水樹は不思議そうな顔をした。

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