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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第三章
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そして季節は7月。中間テストが終わった頃でも明人と水樹の交換ノートは続いていたが、休み時間に席で話したりノートを交換したりをする以外何も進展しないままの初夏だった。普通はそう、心が燃えるような事件もドラマティックな展開もないものだ。だから余計にノートの中だけが特別な異色の空間だった。


でも、始まりがあれば終わりがある。始業式から3ヶ月が経ち、とうとう明日2回目の席替えが行われるのだった。そしてそれを知った明人の心臓はビクッと怯えた。席替えをする事、水樹はどう思っているのだろうか。でも放課後になっても水樹から明人に何か告げる事はなかった。


ノートの中だけとは言え、そこに想いを乗せて沢山の言葉を交換したのに、明日席替えになって離れるとわかっても、それに対する肝心な気持ちは教えてくれないんだろうか?やっぱり何か騙しているの?と明人にはわからない。


もういいよ立花さん。明日でお別れだよ。と明人は決別の覚悟をした。


ああっ、もうっ。


数分後、明人はレポート用紙をめくり、最後の言葉が書かれているページを開いた。明人が生まれて初めて振り絞って出す勇気だ。


‘今日一緒に帰りませんか。’


明日の朝、水樹に届くといい。明人は水樹の机にノートを投げ入れ、心臓をバクバクさせて教室を飛び出した。告白したわけじゃない。でも告白に等しい程のエネルギーがそこにはある。ただ、明人の下手くそな勇気だけが充てんされたこのノートを、明人と水樹、二人が手に取る事はもう二度とはないのだった。


次の日の朝、教室には朝練のある水樹よりも先に明人がいた。


しまった・・・。と明人は焦る。一緒に帰ろう、とだけを書いて具体的にどう待ち合わせするのかを書くのを忘れていた。でももう後には引かない。でも水樹ならすぐに反応して何かいい案を出してくれるに違いない、と水樹がどんな顔をするのかを良い方の感情で考えた。


驚くかな、迷惑かな、わからない、突然思い立ってやってしまっただけに、うまくいくのかが心配と言えば心配で、恥ずかしくて、明人は今すぐ穴の中に隠れていたい気持ちだった。


そして水樹がやって来ると明人はいたずら心に知らん顔で窓の方を向いた。もちろん意識だけはしっかりと前にある。ドキドキした。無駄に緊張した。水樹の動きが固まって止まっているのがわかる。


そして振り向いて俺を見て・・・。と思っても、その日水樹からの返事は無かった。それどころか最終的に席替えもして、水樹と明人は目も合わさずに離れてしまったのだ。


後悔と空虚感が押し寄せる。もう水樹とは同じ時限にいるのが嫌で即刻この教室から去った。

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