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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第三章
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逆転してくれ、守備でも助けてもらい、何よりほとんど無理やり試合に誘ったのに、打たれてしまって明人には申し訳ない気持ちだった。その上水樹は自分の事で精一杯で、打った張本人の瞬介の気持ちなど少しも気に留められずに女の友達とトボトボと歩き始めた。


「ちょっと足洗ってくるね。先帰ってて。」


「足っ!?まいっか。水樹ちゃんかっこよかったよー。バイバーイ。」


水樹は友達と別れると近くにある足も洗える形状の洗い場に移動をし、それから蛇口をひねって水道水を出した。そして水樹よりも先に戻り始めた明人もまた、水樹の事を少しばかりは気にしていた。


「今日勝ってたら長谷川さんMVPですよ絶対。めっちゃいけてました。俺しびれたっす。」


「どうかな・・・。もし今日勝ってたら俺じゃなくて多分・・・。あ・・・。」


明人は手に持っていたグローブに気が付き和木に伝えた。


「和木。立花さんにこれ返すの忘れてた。ちょっと戻るわ。」


「明日でいいんじゃないですかー?」


聞こえなかった。今明人が戻っても水樹は群れの中にいるのも承知していた。でも明人は今すぐにこのグローブを返したいだけだからそんな事はどうでも良かった。


Uターンして、教室に戻る皆とすれ違いながら水樹の姿を探すと水樹はいた。それからゆっくり近寄り声を掛けようとして明人はえっ!?とまず驚いて動作を停止した。発見した水樹は独り、左足のジャージの裾を膝上までまくりあげ、裸足になり水道で足を洗っていたのだった。


何やってるんだよなんなのこのこは意味がわからない。と呆れた気持ちも混じえながら、自分がこんな事くらいでドキドキするわけがないと明人は思った。そう、当たり前だ。この無感情の明人がドキドキするわけないのだった。


「グラブありがとう。」


「えっ?あっ。」


明人が突然話し掛けたせいで水樹はバランスを崩し倒れそうになり、そして明人は何かを考える前にとっさに手を伸ばし水樹の肩を支えた。


「あ、すみません。ありがとうございます。」


当たり前だけど、視界に入ってくる水樹の足は自分の足とは違う足をしていて、明人は直視してはいけない気がした。でも水樹はそんな明人の気持ちには構う気配もなく、そのまま明人を支えにして自分の首に掛けてあったタオルで足をトントンと拭き始め、それから手際よく靴下と靴を履いた。


水樹の転んでもただでは起きず感が明人はくすぐったくて、そして明人がふと気付くと水樹の膝下の横の部分に新しいすり傷があり、そこが紅くにじんでいたのだった。

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