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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第三章
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週末開けの月曜日の朝、明人は理由なく不機嫌なまま席に着き、そして机の不自然さに気が付いた。それで直ぐに水樹を見たけれど、今日はピクリとも動かずに固まったまま下を向いている。


別に振り向いて挨拶をされるのを期待しているわけではないから、それに対して明人は思う事は何もない。そんな時、何かが机の中から明人に向かってわざとらしく顔を覗かせているのに目が留まった。それは先週の金曜日の漢詩の朗読の際、明人から水樹に手渡した新品のレポート用紙だった。


いつだって女はそんなものだから別にどうでも良いのだけれど、無言で机に潜ませる行動は、相当自分との接触を避けているのだなと明人は思った。そして少し経つと、明人は一枚目を破り捨てる為にレポート用紙の表紙をめくった。と同時に、何っ!?と明人は吹いた。


「ぶっ。」


そして次はそれを誤魔化す為にわざと咳込んだ。


「ゴホッゴホッゴホッ・・・。」


‘3つ目、春暁’


ページの一番上にはあの時のままの明人の乱暴な字が居座り、そしてその下に、


‘読む所を教えてくれてありがとうごさいました。’


と水樹自身を写す鏡のような、読みやすくて清潔そうな文字の一言が添えられていた。そして更にその下にはこのクラスの座席表と皆の名前、似顔絵や特徴、口癖なんかが丁寧に書かれてあった。


やる事が幼くほんとに18なのか?と明人は思う。そして、水樹に関して大人っぽいのは外見だけなのだという事が徐々にわかってきた。


水樹は絵が上手くもなく下手でもなく無難過ぎて注視する所も特になく、ただそれがかえって面白くて明人は笑いをこらえながら左を向いた。その肝心の水樹はギュッと体を小さく固め、微動だにせず、いや、笑うのを我慢しているように明人の目には映った。


明人が一通り無言で怪しく笑った後またノートを見ると、座席表には当然のように明人の名前もしっかりと記されていて、そしてその名前の下にはこう書いてあった。


‘笑った顔も優しいです。’


読んだ後、明人はまた左側を向いた。急に顔が熱い。でも、明人は自分の仕草に何か感情を持たれるのであれば、水樹の前では二度と笑わないでおこうと決めたのだった。


この落書きにはまだ続きがある。


‘4月20日(水) 


5、6時間目 A組 VS D組 ソフトボールの試合があります。一緒に闘いませんか。今日の昼休みから練習あります。’


一番下に書かれていたソフトボールの試合の誘いに、そんな目立つ事を明人がやると本気で思っているのかと疑問を抱く。


少しばかりかわいいからって調子に乗んなよ。俺がやるわけないじゃん。やるわけ・・・。


と否定しつつ、水樹は応援に来るのだろうかと明人の頭によぎった。

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