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明人と別れてから、水樹は建物を出てグランドへ続く道を歩いた。
普段笑わない人が笑ったのでとても印象的だった。明人は笑うと目と口元が急に優しく、それになんといっても勇利の友達なわけであり、だから明人は見かけよりも冷たい人ではないのかもしれない、と水樹は再認識した。
もし出来るならば明日から挨拶してみようと思う。留年生だと思わずに転校生だと思うようにすれば、萎縮せずに出来るはずだ。
でも、確かに明人の笑顔のおかげで一瞬は幸せな気持ちになれたけれど、時間が経つにつれ先輩に注意されたショックは大きくなった。怒るのも怒られるのもマイナスのエネルギーしか生まれず、当然恐かったし腹が立ったし悲しくて心が壊れる。
いつも勇利の所へ遊びに行っていた事も迷惑だったんだろうかと落ち込んでしまう。好きでいるのも、振られるのも、友達でいるのも、もうどれも嫌で今すぐ勇利の特別になりたいと願う。
水樹はまた考え過ぎ、そして自分は何をやっているんだろうと肩を落とした。
「ごめん立花さん、話があるんだけどちょっと来てもらっていいかな?」
言われるがまま、水樹はあまり人の気配の無い場所にまたつれられて移動した。
「俺の事知ってる?」
「あ、いえ、知らないです・・・。」
「はは、そうだよね。」
と言ったその学生は簡単にクラスと名前を水樹に伝えた。違うクラスの同級生だった。
「立花さんの事好きなんだけど・・・、付き合ってくれませんか・・・。」
「えっ?」
その後はセオリー通り沈黙となる。水樹は胸がドキドキし、ドキドキしながら勇利の顔を思い浮かべた。
「ありがとう。でも・・・付き合えないです・・・。」
そう言いながら悲しくなった。
「あっ・・・。それなら友達になって欲しいんだけど。」
友達・・・友達・・・?と良い言葉なはずなのに、今日の水樹には重くて、頭がぼんやりした。
「友達・・・から始まる恋って、あるんですか・・・?」
「えっ!?」
水樹ははっとした。これは目の前の彼にではなく、自分自身への問いかけであり、心の声が自然に出てしまったのだ。最低だ。そして、彼の驚いた声で我に返ると返事をし直した。
「好きな人がいます・・・。」
水樹の返事に対して、水樹が持てない勇気を持っている彼は、バツが悪そうに目線を逸らす。
「あ、すみません。お友達ですよね。」
その場でそう約束をすると、彼は行ってしまった。それから水樹は彼の後ろ姿に向かって叫んだ。
「好きって言ってくれてありがとうございましたっ。」
振られてもいいから、気持ちを早く伝えたい。勇利に告白すると決めている次の夏が来るのが、永遠に先のように遠く感じた。




