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立花水樹···2年A組(ハンドボール部のマネージャー)
前田礼···2年A組(水樹の友達)
羽柴瞬介···2年D組(礼の友達。ハンドボール部)
宇野勇利···3年A組(ハンドボール部)
正木聖也···5年E組(水樹の別れた恋人。ハンドボール部)
小春日和というよりは少し強く吹く風の冷たさが気になる日曜日の午後、礼は水樹にもう一度メッセージを送信した。
‘まだデート中だよね。お土産なんだけどさ、新学期に学校で渡すか、それとも家族の人に渡しておいても構わない?’
‘ありがと。今家にはいるけど新学期でいいよ’
何かトラブルかと礼は電話を掛けた。
「何?」
水樹らしくない不機嫌で気だるそうな返事だった。
「あのさ、忘れてたんだ。お土産ね、今日中に食べないといけなかったんだ。急いで渡したいから詳しい家の場所教えて。」
「そうなの?そんな急なお土産もあるんだ。わかった。お姉ちゃんにでも渡しておいてくれる?私は今から寝ようと思ってて。」
「OK。水樹ちゃんのお姉さんだね。渡したらすぐ帰るね。」
礼と水樹は同じ中学校に通っていたので、その校区内に住んでいる。礼は自転車で水樹の家まで行くとインターホンを鳴らした。そして出迎えた水樹似の綺麗な女性に自己紹介をした。
「こんにちは、僕は水樹ちゃんのクラスメイトの前田礼です。水樹ちゃんのお姉さんですか?」
「こんにちは。姉の桜です。わざわざありがとうございます。前田君の事は水樹からいつも聞いてますよ。」
「僕旅行に行っていてお土産を持ってきました。これ、水樹ちゃんに渡してくれますか?」
「海外?凄いねー。ありがとう。ねえねえ、せっかくだから水樹に会っていく?なんか彼氏にふられたみたいでね、あ、もう知ってるかな?私の代わりに話聞いてあげてよ。どうぞ。」
「えっ?」
と言いつつ礼は桜と話しながら中に入った。
「水樹ね、部屋に籠城してるの。」
「やっぱりそっとしておいた方がよくないですか?」
「いいのいいの、あのこ、昔からごちゃごちゃ考えて自分で勝手にこんがらがってがんじからめになってややこしくしちゃう時があるの。かわいがられて育ったからね、甘ったれの末っ子って感じでしょ。」
「確かに。」
「水樹ー、入るよー。やば何この陰気で辛気臭い空気!」
そう言うと桜は水樹の部屋のカーテンと窓を開けて部屋の空気を外へ追い出すような動作をした。
「寒いよ。今日は放っておいて。」
「そうはいかないの。王子が来ちゃったんだから。」
水樹よりも背の高い桜の頭越しに、礼は呆れ顔の水樹を確認した。水樹は礼を部屋に入れ窓を閉め、座るように促した。




