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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
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水樹の顔が好きで、いわゆる一目惚れだった。でも練習したり試合したり一緒に過ごす中で性格を知り、もっと好きになった。


水樹はすぐに悩むしうじうじするし、周りに気を使ってばかりで流されやすい。でも時々ハッとするような強い意志を見せてくる。


聖也はそんな水樹の笑顔が好きだ。水樹の笑顔を見ただけで自分の悩みなんか吹き飛んで自然に笑顔になれるのだ。


聖也は最後の思いを込める。


水樹、俺の為にずっと笑っていてくれよ。そんな簡単に嘘をつけるズルい女になるんじゃねーよ。代わりに俺は、お前に優しい嘘を付くよ。これで俺達、同罪になれるのかな・・・。


「水樹、俺、京都の大学に行く。やっぱり勉強に集中したいんだ。」


ドクン、ドクン・・・と心臓が破裂しそうだ。


言っちゃ駄目だ。お前どんなに水樹を好きだったのか忘れたのか?例え勇利が好きでもこれから本気で振り向かせればいいだろ?水樹の嘘に気付かないふりをしてやればいいだけだろっ。


「別れよう・・・。」


瞬間で水樹は目に涙を溜めた。


またかよ!?その涙の訳はなんなんだ!?


もし俺に受験がなければ、大人のふりして勇利を想う水樹ごと背負い込んでうまくやっていけたのか。


もし水樹が泣いてわめいて京都になんか行かないでって止めに来たら京都の大学を受験するのを諦めたのか。


もしも今日、俺達がやっと一つになれていたら、俺はこんな事を言い出さなかったのか。


答えは否っ。もしもなんてクソ喰らえだっ。


‘わかりました。’


水樹は冷静に言うと脱いであった自分のジャケットを掴み、その後は無言でフラフラと玄関に向かった。


‘ちゃんとうまく付き合えなくてすみません。勉強頑張って下さい。’


そしてお辞儀をしてから出ていった。聖也は玄関のドアがもう一度開かれるのを待っていたのかもしれないけれど、それは幻想だった。


その後水樹の残していった大量のパンを頬張ると、涙が出た。


水樹の初めての彼氏はまぎれもなくこの聖也で、いくつになっても初めて付き合った人は特別に忘れないだろう。


だから水樹が大人になってこの日の事を理解して思い出す度に、聖也は一番いい男だったと笑って後悔すればいい。


水樹と別れた聖也は水樹を忘れる為に宣言通りクラブと勉強に一心不乱に明け暮れ、夏には京都の国立大学に合格する事になる。


しばらくは勇利の顔を見ると首を絞めてしまいそうだったし、勇利と幸せになれ、とすぐに思える程に偽善者でもなかった。


それに水樹とはもっと早くに普通の先輩後輩として話せるようになるはずだったが、15、16歳だった水樹がした経験は敏感過ぎて、激しい気まずさが解消されるのは簡単ではなかった。


そして聖也は卒業する。


その後に残された勇利と水樹、そして聖也のいない明日がどうなるのかなんて、想像した所で聖也にとっては全く価値の無い戯言だった。

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